第18話 騎士


驚く男達に、『騎士様』――フードの人はゆっくり落ち着いた口調で続けた。


「そういうわけで、衛兵は不要だよ。さて、僕らには君達がそこの女の子をかどわかしているようにしか見えないんだけど、もし誤解であったら申し訳ないからね。どちらの言い分が正しいのか判断したい……詰所でじっくりと、事の経緯を聞かせてもらえないかな?」


「に、逃げろ!」


男達は私をフードの人に向かって押し出し、反対方向へ駆けていく。


「うわわわっ!」


「おっと」


押し出され転びそうになった私を、フードの人が優しく受けとめてくれた。


「ありがとう! ……ございます……」


抱き留められながら見上げてお礼を言う。

優しげな、いたわるような視線と目があった。

この瞳はなんだろう……、とても落ち着いて、穏やかな気持ちになれる。


(お父さんみたいな目だ……)


そうだ、お父さんが私を見ている時の目に似ているんだ。

恐怖と緊張でガチガチだった身体から、自然と力が抜けていくのがわかる。

厭らしさや妬みを感じない視線は、随分と久し振りのような気がする。


落ち着いた気持ちで、改めてフードの人の顔を見た。

柔らかそうな金色の髪。少したれ目で、右目の下に泣きほくろがある。

眉の形はきりっとしていて、意思の強さが見受けられた。

全体から受ける印象としては、そう、とても優しそうな人だ。


「大丈夫かい?」


「あ、はい。助かりました」


抱きつくような形になってしまっていたので身体を離し、お礼を言う。


「でん……いや、エド。終わったぞ」


赤髪のお兄さんが、逃げた2人を捕まえてきたようだ。


「気が緩み過ぎだぞ、サム」


黒髪の男性が赤髪のお兄さんを軽く睨む。


「お前が硬すぎるんだよ、ダン」


「あの、お二人も、ありがとうございました」


そう言って私は深々と頭を下げ、顔を上げた。

無意識に勢いがついてしまい、胸が揺れる。

二人はそれを目で追い、気まずそうに視線を外した。


(まじまじと見てこない! 流石、騎士様! 紳士だわ)


「あー、災難だったね。こいつらは当たり屋だ」


赤髪のお兄さんが取り繕うように言った。


「当たり屋?」


「わざとぶつかって、わざと物を落として、ぶつかった相手に難癖付けて賠償させようとするやつらさ」


私の疑問に赤髪のお兄さんが応えてくれた。


「当たり屋についてはキチンと法整備されているので、やった者は裁かれる。しかし、被害者が騙されたと気付かせないように立ち回るのに長けている。被害がなかなか露見しない」


黒髪の男性は続けて説明してくれる。


「裏路地を歩くなら、注意することだ」


「これからは気を付けます……」


確かにおのぼりさん全開で、前を見てなかった。

それで悪い奴らに目をつけられたのだろう。


「君は一人なのかい?」


フードの人の質問に、応える。


「はい、一人で村から出てきました。」


「一人で? 不用心だな。親御さんの許可は取っているのか?」


黒髪の男性が眉を顰めながら言った。


「えっと、両親は流行り病で……」


「む、そうか。それは失礼した」


黒髪の男性は気まずそうにし、ドンっと赤髪のお兄さんに叩かれている。


「いえいえ。気になさらないでください」


「この路地の先に用事があるのかい?」


フードの人が問いかける。

道順について不安を覚えていたところだ。せっかくだから尋ねてみよう。


「魔法使いギルドに行きたいのですが、この道で合っていますか?」


「魔法使いギルドか。この通りからは離れている。今、地図を書いてあげよう」


黒髪の男性が懐から紙とペンを取り出し、サラサラと書き込んでいく。


「ありがとうございます!」


とても助かる。思わずぴょんと跳ねて喜んでしまった。

赤髪のお兄さんと黒髪の男性が、跳ねて揺れた私の一部をジッと見て、そしてまた気まずそうに視線を外した。

……いらんことしてすみません。


<あとがき>


騎士① サム(サミュエル・ジスラン・マルクリー)のステータス


Lv    31

職業   近衛騎士

HP   270/270

MP   101/101

力    91

素早さ  110

体力   84

器用さ  211

魔力   40

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