第16話 トラブル

少し黄ばんだ白っぽい建物を目印に、右へと曲がる。

先程までの喧騒が嘘のように静かになって、人通りが明らかに減った。

歩きやすくなったものの、一抹の不安を覚える。

まぁ、行くしかないけどね。


大通りから外れたとはいえ、お店があちらこちらにある。

店先に商品が並べられており、それを見るだけでもかなり楽しい。


ついついあちらこちらへ視線を送ってしまう。


どん!! ガシャン!!


いきなり衝撃が私を襲った。転びそうになり、慌ててバランスを取る


「え?」


何事!? と思い周囲を見回すと、一人の男の人がすぐ間近に立っていた。


「あ~、やっちまった。あんたがいきなりぶつかってきたから、落としちゃったじゃないか。どうしてくれるんだい?」


示された足元を見ると、男性が持っていたであろう箱が地面に落ちていた。

箱は綺麗な装飾がなされていて、見るからに高価そうだ。


「え? あの……」


私がぶつかってきた? 

あ、見辛いけど細い路地がある。ここからこの人は出てきたのかな?

確かに私はあちこち見ていたから、前を見るのは疎かになっていた。

それでぶつかってしまったんだろうか?


「俺は見たぞ、あんたがこっちの人にぶつかるのを。」


そう言って、別の男性が現れる。


「今のはあんたが悪いな。」

「俺も見ていたが、あんたがぶつかりに行ってたな。」

「こりゃ高そうだ。中には何が入っているんだい?」


次々証言する人が現れ、私は囲まれてしまった。

男たちの身なりは古ぼけて汚れが目立つ。30代くらいの年齢で、強面というか……人相が悪い。


(どんどん怖い人が集まってくる……)


既に涙目になりながら事の成り行きを見守る。

話がどんどん進んでいく。


「これには高貴なお方から頼まれた花瓶が入っていたのさ。大層な値打ちもんさ。」

「高貴な方の? それは大変だ。下手を打つと騎士様に捕まってしまうぞ。」

「あんた弁償できるのかい?」


つ、捕まる!? べ、弁償!!

あわわわ、大変なことをしてしまった!! 


「えっと、その花瓶って、おいくらなのでしょうか?」


おずおずと値段を聞いてみる。


「これは金貨50枚はする品だな。」


「きっ、金貨50!!?」


とても払える金額じゃない。

金貨なんて見たこともないよ……。


「払えないのかい? それなら近くにお金を貸してくれるところがある。そこへ行こうじゃないか。」

「そうだな、払えないならそうするしかない。」

「よし、連れて行ってやろうじゃないか。」


お金を借りるって、つまり、借金!?

お父さんとお母さんから、何があっても借金をしてはダメだと言われて育った。

あっと言う間に利息が膨れ上がって、返しても返しても追いつかなくなってしまうのだと聞いている。


「いえ、その、借りても返すことが……」


なんとか断りを入れよう試みる。

先程まで笑顔を見せていた男たちの表情が一遍した。


「弁償は無理、金も借りられない、ねぇ」

「そんな話が通るとでも思っているのか!?」

「衛兵に突き出してもいいんだぞ!」


男たちは荒だった声を出し詰め寄ってきた。


「ひぃぃっ」


私は囲まれ、逃げ場がない。足がもつれ、尻もちを着いてしまった。


「おぉ、こりゃ……」

「なぁ、おい。」

「あぁ、こいつはなかなかの上玉じゃねえか」


「え?」


転んだ拍子にフードが外れてしまったようだ。

男たちは私の顔と胸を舐めまわすように見つめてくる。


「お嬢ちゃん、借金が嫌なら仕事を紹介してやろう。」

「なぁに簡単な仕事だ。男の人と一緒に過ごすだけさ、誰でも出来る。」

「そうそう、それで弁償代が稼げるんだ。楽なもんだろう?」


男たちはニタニタと笑い、私を強引に立たせ、連れ去ろうとする。


「いや! やめて!」


力を込めて抵抗しようとするけど、相手は私を囲んでいる人が3人、そしてもう1人、私がぶつかったであろう男が離れてみている。

とても逃げられそうにない。力じゃ男の人にかなわない。


(私がぶつかったのがいけないのだけど……)


反省はしているが、それにしたって展開がいきなりすぎる。

先程までちょっと良いことあるかもなんて思っていたのに、いきなり弁償やら衛兵に捕まるやら金貨50枚だ。

ただ、このまま流されては碌な事にならないのだけは分かる。

だけどどうすれば切り抜けられるのかがさっぱりわからない。


(ここは、村じゃない)


さっきのお姉さんみたいに、私に対して親切な人もきっといる。


「――だ、誰か、助けて!」


たまらず私はそう叫んでいた。

本当に誰でもいい。

僅かに希望を込めての行動だ。


<あとがき>


チンピラ①のステータス

Lv    7

職業   チンピラ

HP   33/33

MP   0/0

力    15

素早さ  16

体力   10

器用さ  16

魔力   0

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