第14話 甘味!
薄暗いトンネルのような門を抜ける。
いきなり入ってきた日の光で、眼が眩んだ。
そこは大きな広場であった。
一面に白い石畳が敷かれ、きれいに整備されている。
見渡すと、広場を囲うように背の高い建物が並んでいて、そこから先は見通せない。
広場の内側にはこれといった建造物はないが、屋台がいくつか出ているようだ。
(……そういえば、お腹空いたなぁ)
今は朝食と昼食の間くらいの時間。
ここ最近は食欲がなく、ほとんど食べていなかった。目に映る屋台や、そこから漂ってくるいい匂いを意識しだしたら、急にお腹が空いてきた。
(何か食べてみようかな)
そう思い広場を見渡すと、ふと目に入った屋台の看板に「クレープ屋」とあった。
20代半ばくらいの背の高い赤毛の女性がきびきびと動いているのが見える。
甘味……村ではほとんど食べる機会が無かったものだ。
散々な目にあって街まで来たんだ。
……ちょっとくらい、良い目を見てもいいよね?
ウキウキとした足取りでクレープ屋の屋台まで向かう。
「げッ!」
クレープ屋に掲げられている値段を見て、思わず口に出してしまった。
普段食べていたパンの何倍もする。
「ふふふ。お嬢ちゃん、この街に来たばかりかい?」
そう声をかけてきたのは屋台で働くお姉さんだ。
「はい、そうです。」
「まぁ、甘味だからね、確かに高い。でも、そこらの甘味と一緒にしてもらっちゃぁ困る。クレープはね、生クリームがたーっぷり使われた甘味なんだよ」
「な、なまくりーむ?」
「あんた、ケーキは知ってるかい?」
「ケーキですか? お貴族様が食べるっていう……?」
「そう! そのケーキさ。ケーキっていうのはね。純白の小麦で作った生地をオーブンで焼いてね、ふっわふわで甘いパンみたいなのを作って、そのうえに生クリームをたっぷり塗って、最後に高級フルーツをトッピングするっていう贅沢な代物さ。」
「じゅ、純白の小麦……ふっわふわで甘いパン……、なまくりーむ……、高級フルーツ……」
純白の小麦! なんて贅沢な品だ。
ここらじゃライ麦パンが主流だ。小麦もあるけれど、純白になるまで挽いたりしない。
なまくりーむというのがピンと来ないけど、何だか凄そうだ。
「それでクレープなんだけどね、生クリームをたっぷり使った甘味なんだよ。」
「えぇ!!」
「どうだい? ケーキに使われている生クリームがたっぷり入ったクレープ……そう考えたらこの値段、決して高いもんじゃないと思わないかい?」
「た、確かに!!」
パンの何倍もする値段だけど、買えないほどじゃない。
お父さんとお母さんが残してくれた金額は結構な額だから、今これを買ったからといってすぐ困窮するようなことはない……。
(か、買っちゃおうかなぁ。)
もうかなり心が揺れている。
大変な目に遭ったんだから、ちょっとだけ贅沢していいよね。
でも、うーん、やはり値段が……。
「ふふふ、今ならおまけに、生クリームをちょっとだけ増やしてあげるよ。」
おまけ……!
「買います!」
私はいそいそと財布からお金を取り出し、お姉さんに渡す。
うぅ、おまけとか割引とか言われると弱いんだよね。
「毎度あり!」
お姉さんは調理に掛かった。物珍しくて、まじまじと見てしまう。
おたまですくった白い液体を鉄板の上に垂らすと、木の棒ですぐに薄く伸ばして円状に広げた。
生地が焼きあがると、そこに白いふわっとしたものをたっぷりと載せていく。お姉さん曰く、その白い物が「生クリーム」らしい。
「本当は生の果物を乗せるんだけど、それだと値段が跳ね上がっちゃうからね。」
そう言ってお姉さんは干し芋を乗せて、生地を手早く巻いていく。
最後に紙で包んで……。
「さぁ、できたよ。」
「こ、これがクレープ!!」
持った感じ、ふにゃっと柔らかい。
(どんな味なんだろう……)
期待に胸を膨らませて、そっと齧る。
「!!」
甘い!! ふわっと柔らかく濃厚な甘い味が口いっぱいに広がった。
(これが生クリーム!)
もう一口齧る。
干し芋のぱさぱさした感じに生クリームの濃厚さが合わさり、まろやかに仕上がっていた。
はむはむ! ウマッ! はむ! もぐもぐ! はむはむ!
空腹だったこともあり夢中で頬張っていると、あっと言う間に無くなってしまった。
(もう無くなっちゃった……。でも、すごい満足感! 甘いものをがっつり食べたって感じがする。)
「どうだい? 美味しかっただろう?」
「はい!」
お姉さんは私の返事を聞き、うんうん、と満足気に頷いた。
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