第2章 街、そして出会い

第13話 街へ


自分以外の人は全て敵。村を出てからずっと、そう考えていた。

だけど、村を出てしまえば、私の出会う人は皆、初対面なわけで。出会って、挨拶や言葉を交わして……すぐに敵になるわけない。


(そんな当たり前のことにも気付かなかったなんて……気分が沈むと視野が狭くなるなぁ)


村中の人が敵に見えて、逃げ出して、自分が目立ちたくない一心で子猫を見捨てた。


でも、改めて冷静になって考えると、私は何か悪いことをしただろうか。

村で悪事を働いたわけでもない。

子猫にケガを負わせたわけでもないし、捨てたわけでもない。

自分の身を守るために立ち回っただけ。


(いつの間にか、卑屈になっていた。考える方向が、間違っていたのかもしれない)


何か悪いところはなかったか、どうしたら良かったのかを振り返り考えることと、自分を暗い袋小路に追い込むことは違う。というか、真逆だ。


子猫のことは思い出すと胸が痛む。だが、まずは自分のことだ。


(私が明日ご飯を食べられるかどうかも分からないのに、子猫の心配ばかりしているわけにはいかない)


もしまた同じ状況になって、子猫を救うか否かの選択を迫られたとしても、私が救える状態になければ同じことの繰り返しになってしまう。

罪悪感に押し潰されてしまうのはもう嫌。そうならないよう、まずは自分がきちんと地に足をつけて立たないと。


(叔母さんを見つけて、拝み倒してでも協力を取り付けよう!)


どうにか頼み込んで下宿させてもらおう。それがダメなら、住む場所の当てだけでも協力をお願いしよう。

いきなりやってきて叔母さんには迷惑だろうけど、そんなことは言ってられない。


歓迎してもらえなくても……どんなに嫌がられたって、村長さんやロブみたいに私をどうにかしようとはしてこないだろう。

叔母さんは魔法使いだ。

魔法使いという存在は、そんなに多くない。

普通の人を探すよりも、探しやすい筈だ。


そう考えると、気が楽になってきた。


よし! さっそく行動だ!



街は外壁に囲まれており、馬車の停留所からほど近い場所に大きな門が見える。

門の手前辺りから列が伸びている。遠目で見る限りだけど、衛兵さんが街へ入る人を確認しているみたいだ。

私も大人しく列の最後尾に並ぶ。


(うわぁ、大きな外壁……)


外壁は5メートルほどの高さがあって、外壁の上を衛兵さんが歩いているのが見える。

門はトンネル状に外壁を貫く形になっていて、ここからではまだ街中の様子を窺うことはできなかった。


(街かぁ、どんな感じなのかなぁ)


街へ足を踏み入れるのは産まれて初めてだ。

行ったことのある人から聞いた話では、平屋の多い村と違って、3階建てや4階建てといった高い建物がたくさん集まっているとか。

その分、行き交う人も多く、常にお祭りのような賑わいらしい。

あと、美味しい食べ物もたくさんあると聞いた気がする。

くれーぷ……だったかな? そんな名前の甘味が有名らしいけど、名前以上の情報はない。

街へ行くのはいつも男性陣で、甘味にはほとんど興味がないようだった。

……歓楽街やお酒の話はしきりにしていたような記憶があるけど、そっちの話には私が興味を持てなかったので覚えていない。


(くれーぷかぁ……どんな甘味なんだろう。食べてみたいなぁ)


そんなことをぼんやりと考えていたらいつの間にか列は進み、門がだいぶ近づいてきていた。

外壁に近づいた位置から門を見上げると、圧迫されるような威圧感を覚える。

門前の衛兵さんは複数で、列の先頭の人から順に振り分けられていくようだ。見ていると、ほとんどの人が二言三言話した後に通されているみたいだけど、ごくたまに衛兵さんに連れられ別の場所へ向かう人もいた。


(あの人はどうして連れていかれるんだろう? うーん、分からない)


私も連れて行かれたらどうしよう……若干の不安を覚えつつ、いよいよ私の番になった。


「フード、外してもらえるかい?」


「は、はい!」


慌ててフードを外す。名前や出身地を聞かれた。


「君は何をしにこの街へ?」


「あ、えっと、その、叔母に会いに……」


「ふむ、君だけで? ご両親は?」


両親? どうして両親のことを聞くんだろう?


「えっと、父も母も病気で……4年ほど前に」


私の回答に、衛兵さんは決まりが悪そうな顔をした。


「あー、そうか、それで身内を頼りに?」


「は、はい、そんな感じです。」


「辛いことを言わせて済まないね。今、この街に偉い人が来ていてね。変な人を通さないよう、こうやって検問をしているんだよ。普段ならすぐに街に入れるんだが、今日のところは勘弁しておくれ」


「い、いえ。大丈夫です」


「そうか、助かるよ……では、君の来訪を歓迎しよう。ようこそ、デリグラッセへ!」


そう言って私を通してくれた。

ふぅ……良かった。無事通れた。

衛兵さんの私を見る目や話し方が、どうも小さい子供を相手にしているかのように感じられた。

私の顔って、そんなに子供っぽいのだろうか? 背は確かに同年代より低い方だけど……ま、まぁ無事通れたからいいか。



<あとがき>


衛兵のステータス

Lv    10

職業   衛兵

HP   44/44

MP   0/0

力    21

素早さ  15

体力   25

器用さ  13

魔力   0

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