第12話 閑話 ロブという男

<ロブ視点>


エステル……ガキの頃は地味で目立たない奴だと思っていたが、ここ何年かで見違えた。

俺の好みの顔になったし、特に、あの身体……胸がいい。胸が。

あのでかい胸を、思う存分に揉みしだいてやりたい。


俺以外の奴があの胸をじろじろ見るのは不快だ。

エステルは俺が目を付けた女だからな。他の奴にくれてやるわけにはいかない。

だから俺は、エステルを守ってやることにした。


村でエステルを見かけたらなるべく声をかけてやるようにしたし、獲物が取れたら持って行ってやったりもした。

当然、エステルは俺に感謝している筈だ。感謝しない道理がないだろう?

こんなに良くしてやっている俺に、惚れない訳がない。


狩りの仕事が終わり、村でいつものようにエステルを探す。


「ねぇ、ロブ。ちょっと話があるんだけど」


声をかけてきたのはアイサだ。

こいつはどうやら俺の事が好きらしい。

まぁ、当然だな。俺以上の男なんて、この村……いやいや、街にだっているわけがない。

しかし、アイサ……この女はダメだ。

話していても、俺の言葉を遮ったり、自分の話ばかりしようとするからな。


「俺はお前と話すことはないが」


「……エステルね? またエステルのところへ行くのね?」


「お前には関係ないだろう?」


「あんな子のどこがいいの!?」


アイサは気が強く、生意気にも俺に意見する。

……こいつがダメなのは、こういうところだ。

良し悪しは俺が決めることで、お前が決めることじゃない。

女は男の言うことを聞くべきだし、余計なことを言ってはいけない。

身長が高いのもマイナスポイントだ。俺は見下ろすのは好きだが、見上げるのは嫌いだ。

まあ、アイサの顔はそれなりに見れたものだし、胸は物足りないが腰や尻はまあまあだから、1度くらい抱いてやってもいいかなとは思っているが……。

アイサを無視して先を急ぐ。

いた! エステルだ!

俯き加減で道を歩いている。どうやら家に帰る途中のようだ。


「よう、エステル! 今、帰りか?」


エステルはビクッと震えてこちらを見た。


「こ、こんにちは、ロブ。ごめん、今急いでいるから」


「少しくらい遅れたって、別に構わないだろう?」


エステルはびくびくしながらこちらの顔色を窺っている。

そうだ、それでいい。

俺は偉いのだから、俺の機嫌を損ねないよう周囲が気を遣うべきなのだ。

エステルはそれを良く理解している。

当然、俺の話を遮らないし、否定もしない。

いつも相槌を打って、応援してくる。


「俺はこんなしょぼい村で終わる男じゃない。いつか北の山にいる魔狼フェンリルを倒して英雄になり、王都で暮らすんだ!」


「が、頑張ってね」


「おぅ! 王都に行くときはエステル、お前も連れて行ってやるからな!」


そう。俺はこんな田舎で終わる器じゃないんだ。

フェンリルなんて、ただデカいだけの狼だろう。

俺はそんなもの恐れたりしない。他の奴らと俺は違うのだ。

良く理解しているエステルも、当然連れて行ってやる。

他の奴らにくれてやるものか。


「あはは……」


エステルは俺の言葉を聞いて嬉しそうに笑った。

俺の誘いなのだから、喜ぶのは当たり前だな。

その日はそれで別れた。

明日は成人の儀。エステルが加護を得る日だな。

……俺のためになる、有用な加護を得てこいよ?



エステルが加護を得たらしい。

【癒しの母乳】? 何だそれは?

聞いたことのない加護だが、それは他の奴らも同じだったようだ。

母乳か……母乳、ね。

どんな加護か、試してみればすぐに分かるだろう。

さっそくエステルを村で探す……見つけた。


「よう、エステル! 妙な加護を授かったそうじゃないか」


「えぇ……まぁ……」


「『癒しの母乳』だったか? どんな加護なんだ?」


「えっと、どんなと言われても……私もよく分からなくて」


エステルも分かってないらしい。好都合だ。……まあ、知ってたって俺が『調べてやる』ことに変わりはないんだが。


「へえ、分からないのか。……なんなら俺が調べてやろうか?」


「え?」


「すぐそこに猟師小屋がある。誰も来ないから、じっくり調べてやるよ。」


エステルも成人したことだし、頂くにはいい頃合いだろう。

加護も調べられて一石二鳥だな。


「え? だ、大丈夫。自分で調べるから!」


「遠慮すんなよ? 俺とお前の仲だろう?」


「遠慮なんかじゃ――え、私とロブの仲って?」


「あぁ、恋人同士、遠慮なんてすることはないさ。」


「こ、恋人!?」


何を驚いているんだ……あぁ、俺のような素晴らしい男に恋人だと言ってもらえて、嬉しいんだな。

だが、ぐずぐずするのはいただけない。

この俺を待たせるとは……偉くなったもんだな、女の分際で。


「――いいから来いよ!」


俺の声にエステルはびくっと震えた。そうだ。俺を怒らせてはいけないのだ。

俺は満足し、エステルを引き摺っていく。

生娘だし、多少抵抗するのは大目に見てやるか。

女はムードだなんだを大事にするそうだが、そんなもの知ったことじゃない。

俺は俺がしたいようにする。

エステルも今は嫌がっているだろうがすぐに――ん? ……そうか。


「何だ。嫌がっているかと思ったら、喜んでいたんだな」


「――え?」


「女は興奮すると母乳が出るんだろう? 胸に染みができているぞ?」


嫌がっている振りをしているだけか。

考えてみれば当然だな。俺に抱かれるんだから、嬉しいに決まっている。


「え!? こ、これは違ッ……!」


「親父たちがそんなことを話しているのを、聞いたことがあるんだ。」


この分だともう下の方もびしょびしょだな。

しょうのないやつだ。


「ほら、もうすぐだ。」


エステルは恥ずかしがっているのか、歩くのが遅い。

面倒だな。引っ張って連れて行ってやろう。


「何をしておる!」


不意に横合いから声がかかった。


「チッ! 村長か」


そもそもこのジジイが村長ってのが、俺は前から納得いかないんだ。

ろくに狩りもできないくせに、村長だと? 笑わせる。


「ちょっとエステルの加護を調べてやろうと思ってね」


「ワシには強引に連れ回しているようにしか見えんがな」


「そんなことはないさ。俺とエステルは恋人同士だからな」


「恋人同士? そんなのは初めて聞いたぞ。……エステル。ロブはこう言っとるが、本当なのか?」


「ち、違う。ロブとは恋人なんかじゃない!」


……何を言ってるんだ? あぁ? 


「ひッ!」


エステルを睨みつけると脅えた声を出した。

あぁ、成る程。エステルは村長に生活を支援されてるんだったか。

当然、見返りを要求されているだろう。俺が恋人だと村長にばれると都合が悪いんだな。


「エステルは違うと言っている。さぁ、手を離しなさい」


「……チッ!」


今はまだ、村長に逆らうだけの力がない。

言う通りにするしかない。

忌々しいことだ。


「……邪魔が入ったが、次はじっくり調べてやるよ」


エステルが村長の物になっているのかどうかも含めて調べねぇとな。

もし、生娘じゃなかったら……俺の物に手を出した村長ごと……。



翌日、俺の家に村長が怒鳴り込んできた。


「エステルはどこじゃ! すぐに出せ!」


……何を言ってやがるんだ、このジジイは?

話を聞くと、エステルが行方不明だという。

村長の奴、俺がエステルを監禁していると疑って怒鳴り込んできたらしい。


何だそれは! 監禁なんざしそうなのは寧ろてめえのほうだろうが!


結局、猟師小屋も含めて家捜しされたが、見つかる訳がない。

当たり前だ。俺はエステルが行方不明になっていることだって知らなかった。

腹が立って「あんたこそどこかに隠してるんだろう」と村長を問い詰めたが、どうも本当に知らないようだ。


だとすると、エステルはどこに消えたんだ?

……腹立たしいが、エステルに好色な視線を送る男どもは多い。まさか、そいつらに……?


村長と共に、村中の独り身の男の家を捜索することとなった。

どいつもこいつも寝耳に水、といった反応ばかりで、情報も痕跡も出てこねえ。

エステルが女どもから集団で虐められていたことから、その線も怪しいと村長が言い出し、結局、村中の家屋の全てを捜索することとなった。


しかし、エステルはどこにもいなかった。


いつの間にか「俺が襲おうとしたせいでエステルが村から逃げ出した」という噂が立っていた。

俺が襲おうとしたところを村長が助け出した、という噂もあった。

ふざけるな! 俺とエステルは恋人同士だった! 邪魔をしたのは村長のジジイだ!


さてはあのジジイ、エステルを襲いやがったな?

多分、そのせいでエステルは逃げ出したのだ。

それを誤魔化すため、俺を貶めるような噂をばら撒いたに違いない。

――いつか殺してやる!!


捜索中に耳に入ったが、エステルには叔母がいるらしい。

魔法使いだという。

成る程な。その叔母を頼りに出ていった、ってことか。


連れ戻そうかという話も出たが、その魔法使いの叔母とやらが出てくると厄介だ。

それで村の男どもは皆諦めたようだが……俺は違う。

魔法使いが何だっていうんだ。所詮は女だ。男が勝てない道理はない。

何より……エステルは俺の物だ。俺の物が、断りもなく勝手に村を出るなんて気に入らねえ。


絶対に連れ戻してやる!


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