第5話 母乳の効果


「え? あれ?」


そう決意し、搾る作業をやめようとすると、つい今まではぼんやり滲むような量しか出なかった母乳が、突然に溢れてきた。

何もしなくてもしきりに垂れてくる。というかもう、流れる勢いだ。


「な、何で!? どうして!?」


焦れば焦るほど勢いが増している気がする。

私は慌てながらも、垂れる母乳をこぼさないよう器に移した。

スカートに染みたり床に広がったら洗濯や掃除が大変! と思った一心での行動だ。

とにかくこぼさないように集中していたら、いつしか焦る気持ちは落ち着いてきた。


それと同時に、母乳の出もにじむ程度に落ち着いた。


「……びっくりした。どうしたんだろう、急にどばーって出てきて……」


きっかけは何だろう。ロブの事を考えだして……怖いと思ったり、その後は、こぼしちゃいけないと焦っていた。原因らしいことは、それくらいしか浮かばないけれど。

……うーん、分からない。


唸りながら天井を仰ぐと、強い疲労感が襲ってきた。


(慌てて気が疲れたかな?)


ぐりぐりと肩を動かしながら、手で肩を揉む。

胸の重さのせいか肩こりが酷いので、疲れた時にはついついやってしまう癖なのだが、べちゃっと濡れた感触が肌に伝わった。


「あ、手がびしょびしょなんだった……」


溢れだした母乳はどうにか器に出せたものの、胸を支えていた手は当然ながら、すっかり母乳に塗れていた。

……分かっていたのに、ついつい癖で肩を触ってしまった。

腰から上は服を着ていないのだから、拭けばいいだけ。桶に入れたままの手拭いを取りに立とうとして、溜息が出た。


(……私、裸で何やってるんだろう?)


じわっと目に涙が溜まる。

加護の力に一喜一憂し、結局は村八分の状況から抜け出せそうもなく、寧ろさらに悪い状況になってしまった……それが改めて頭に浸透してきて、ひどく悲しくなってきた。


「え、あれ!?」


また乳首から母乳がポタポタと垂れてきた。


「もう……やめてよ!!!」


涙がこぼれてきた。……生まれて初めて、創造神様に怒りを覚えたかもしれない。


「何なの! この加護は!!」


加護というより、これはもう呪いじゃないか!


仕方なく再び器を取り、床にこぼさないように集中する。


「……はぁ、はぁ、はぁ」


大した動作もしていないのに、やけに呼吸が荒くなってきた。

どういうわけか、疲労感が増してくる。

感情が昂ったというだけでは説明がつかないくらい、疲れ果ててきた。


「も、もしかして、この母乳出すのって、すごく体力使うのかな?」


気持ち悪い。眩暈がしてくる。

ふらつきながらどうにか片付けを澄ませ、布団に倒れこんだ。




鳥のさえずる声に、ぱちりと目が開いた。


(朝になってる……)


ベッドからの視界はいつもと変わらないのに、自分でも驚くほど、気分がいい。

最近は心労からか寝不足だったから、ぐっすり寝られたのが良かったのかもしれない。

それにしても、寝起きの怠さがほとんどないのはどうしてだろう。


「あ、頭痛がしない……肩こりもない!」


あり得ない。

胸が大きくなってからというもの、こんなに爽快な朝を迎えたことはなかった。

幾分調子が良い時だって、軽い頭痛は必ずあったのに。

ここまで何もない状態なんてそれこそ、子どもの頃以来だろう。

恐る恐る、肩に触れてみる。いつもの硬く張った感触は、全く感じない。


そういえば昨日、母乳まみれの手で肩を触った。

もしかして……あの母乳、肩こりにも効くの!?


「これは!!!! 凄い!!!」


感動のあまり、声が出てしまった。

ああ、ずーっと悩まされていた肩こりと頭痛に、さよならできるなんて!

……『母乳を塗る』って部分にはやっぱり抵抗があるけど、あの痛みや苦しみに比べればそれくらいどうってことない。

嬉しい……なんて素晴らしい加護なんだろう!

創造神様、昨日は怒りを覚えてごめんなさい!



<あとがき>

エステルのステータス

Lv    1

職業  聖女

HP   10/10

MP   136/136

力    2

素早さ  2

体力   2

器用さ  3

魔力   105

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