第55話 馬車(!?)に揺られて


「うーん、すごくパワフルな走り…。まるでバスに乗っているみたいだ」


 僕は思わず呟いていた。


「そうであろう!そうであろう!」


 得意そうに応じるのは不動のライことサリナスさんに仕える騎士のライ・ジーン。なぜか僕の隣に陣取って座っている。


「この馬車は大型なれど引くのは我が愛馬イナズマと我が義姉妹しまいフウに借り受けしその愛馬タツマキ…、二匹にかかればいかに重くとも引けない物ではない!」


「い、いや、コレって馬じゃないでしょ…」


 僕は思わず呟いた。


「そうね…、そもそも足が四本じゃないし…」


 馬車内に同乗するメイメイさんが応じる声が車内から聞こえた。僕が座るのは馬車の馭者ぎょしゃ席の上。密着するようにライが横に座り何かと接近してくる。


「六本足の馬なんて聞いた事が無いよー」


 続いてアイアイの声、そりゃそうだと僕も思いながら僕は目の前で馬車を引いて走る二匹の馬を眺めた。そこには六本足で力強く走る姿があった。


おそれ多くも姫様の駆られる愛馬ロキフェリ殿の種を受けし牝馬ひんばから生まれしこの牡馬おうま、それを我ら義姉妹しまいが譲り受けたのだ」


 胸を張って得意気に語るライ。


「譲り受けたなどと謙遜せずとも良い」


 自らの愛馬を駆りながら前を走るサリナスさんが言った。このスピードの中で彼女の声はよく通る。


「我が愛馬ロキフェリのとは言え二匹はなかなかに悍馬かんば、その背を許す事は無かった。二人に会うまではな」


「姫様…」


「乗り手もおらず、言う事も聞かなければいかなる駿馬もその力を活かせまい。二人がいてくれて良かった」


 確かにそうだ。乗れないし、言う事も聞かずに暴れるのなら困った事になってしまう。そういう意味ではフウとライの二人にとっても、タツマキとイナズマの二匹にとっても幸せな事なんだろう。そう思いながらも僕にはもう一つ気になる事があった。


「ところでサリナスさんの愛馬…なんですかね、なんで八本足なんですか?」



次回、『派手な騎士達』。


お楽しみに。

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