第54話 国主の呟き(公王夫妻目線)
「塩…だと…?」
グランダライ公国、その中心地であるダライブルグ城の一室で一人の男性が呟きを洩らした。声の主はラウムス・メディウス・ロクス・ダライブルグ・ドゥクス・グランダライ…、サリナ・ダライブルグの祖父であり公王である。そのフルネームは『グランダライ公爵、ダライブルグ中央家のラウムス』を意味していた。
「サリナが…?それが
公王という事もありあまり喜色を表に出す事はないがその孫娘が8トンもの塩を持ち帰りそのうち6トンを国庫に入れ、残り2トンを領民に下げ渡したいという報告と願いを受けわずかだが表情を崩した。
「商業都市セキザンの神殿に巡礼した際に
新参者も良いところである。聞けばたまたま知り合っただけの
「しかも、男試しを見事突破したとか…」
カツ…。
足音がした。
公王ラウムスがその方向を振り向くといつの間にかやって来ていたのか彼の妻の姿があった。自らと同じく年齢を重ねた白いものが混じる髪、長らく共に人生を歩いてきた伴侶であった。
「相手をしたのはフウとライ…、本来なら打ち倒さずとも多少の太刀打ちが出来れば入城を…。いや、サリナの客…。商人なればあの二人を前に立ち向かう勇気を見せただけでも認めたであろうに。それを《簡単にあしらった》と聞く…」
「
公王として最低限、身を守るくらいは武芸を身につけているラウムスであったがあくまでそれは一般的なもの。最前線で戦う…、時にはモンスターも相手取る達人レベルの戦いとなると最早ついていけない。想像もつかない話であった、少なくとも分かっている事と言えば二人のうち一人だけでも相手にすれば確実に負けるという事。いかに死なないように…、戦闘から
「それとて困難を極めるだろうが…な」
ラウムスはかすかに自虐的に笑った。
「自ら戦う事が役目ではあるまいて…」
「サイサリス…」
公王が
「
「この
このダライブルグでの戦時においての二人の関係はチェスの駒である
「それが槍としての我が役目ならば…」
結婚を機に
「申し上げます!東城門内に塩を積んだ荷車が次々と並べられておりまする。お
「運び入れよ!サリナの希望通り2トンを残し、早急にな!湿気は塩の大敵じゃ、急いでやるのだ」
報告に来た者にラウムスは素早く返事をして走らせた。その様子を見ながら公王妃サイサリスは口を開いた。
「そう言えば明日、サリナはこの件の報告を兼ねて陛下に帰城の挨拶をするのでありましたな」
「む…?」
「
「名を…」
名を与える、この
「そうじゃ、その商人を共に同席させてはいかがじゃ?」
「ぬ…、どこの者とも知れぬが…」
「ほほほ。有能なれば
サイサリスの言葉にラウムスはピクリと反応した。
「我が
バリバリッ!
公王妃サイサリスの傍に一筋の雷が落ちた、次の瞬間にはその手に槍が握られていた。長い間、彼女と共に戦場を駆けた稲妻のような形の刃先を持った槍…。神オーディンより下賜されたという神聖な雷の力を宿したという魔法の槍である。
「
そう考えていたサイサリスだが、翌日の謁見の際に
□
謁見の後、
「あの
「歴代最強と呼ばれた
夫であるラウムスの言葉にサイサリスは静かに頷いた。
「勝負にもならぬであろう、かすり傷一つ負わせられたら上出来…」
「そ、そんなに…」
「ふ、ふ、ふ…。欲しいのう…。強くて地位にも興味を示さぬあの男…」
サイサリスは笑う。その姿は老女のそれではなく無垢な少女が心の底から欲しい物を見つけた時のような笑顔であった。
「表には出さぬようにしているがサリナスはあの者を気に入っておるように思う。オーディン一筋、槍一筋で来たあの娘がじゃ…。さらにはこの
得体の知れぬ強さ、それだけでも傳次郎はサイサリスの興味を引いた。ましてや公国にとって最大の泣き所、塩を安価に素早く供給してくれる点も評価するポイントだった。商業都市セキザンが総出で塩を納品しようとしてもこうはなるまい。
「欲しいのう…、孫の為にも…。呼びたいのう…、
聞けばサリナスはさらなる塩を買う為にとあるダンジョンに向かうという。あの若者と連れ立って…。
「何かあると良いのう…、何かが…」
サイサリスは呟く。
「そう言えば先程、侍女を使いを出していたな…。あれは何を…?」
公王ラウムスは妻であるサイサリスに尋ねた。
「あれかえ?あれは…」
その問いにサイサリスはニンマリと笑って応じた。それはまるでとっておきの
その老女の名はサイサリス・メディウス・ロクス・ダライブルグ・ドゥクス・グランダライ…、サリナ・ダライブルグの祖母にしてグランダライ公王ラウムスを入り
□
三章終了です。
次章で傳次郎はサリナ改めサリナス達と常光のダンジョンに向かう事になるのですが果たしてそこでは何が待つのか…。
第四章『常光のダンジョン』。
お楽しみに。
三章冒頭に公王ラウムスと公王妃サイサリスの記事を追加しました。是非ご覧下さい。
それではサヨナラ、サヨナラ、…サヨナラ。
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