第53話 名前の意味
謁見は終わった。
公王陛下(結局名前を聞く機会は無かったが陛下と言ってれば問題なかったので知らなくても良いかと思いあえて聞かなかった。後で誰かに聞くとしよう)はお
代わりにお妃様に場は仕切られ謁見はお開きになり、その場から退出する事となった。サリナ・ダライブルグ改め新たにサリナス・ケレト・ブルグとなったサリナスさんに続き僕、そしてフウとライが謁見の間を後にした。
謁見の間の扉が閉まると誰ともなく
「「「「はあああぁ〜」」」」
と、長い長い息を
「「うう…、ぐ…ううう…」」
声のした方を見るとフウとライが互いの肩を抱きしゃがみこむようにして泣いていた、声を必死に押し殺すようにして…。しばらくすると二人は立ち上がりサリナスさんに向かって口を開いた。
「ひ、姫様…」
「よろしゅうございました」
フウとライが言っている内容からサリナスさんにとって何か良い事があったようだし…。そうするとアレか…、名前か?新たな名前を与えられた事…、それがこの謁見であった特別そうな出来事だ。もしかすると武家社会で言うところの
そう言えばサリナスさんも謁見の間を退出する前の口上で『与えられた名を謹んで受けると共により精進して名を恥ずかしめぬようにする』みたいな事言ってたし…。
「姫様に継承権をお認めになられるとは…」
(え!?)
「さらには公王家と同格の家格をお認めに…」
(なぬ!?)
なんか大事になってる、そう思ってサリナスさんを見ると…。
「わ、私が…、
普段は泰然自若としたサリナスさんが緊張した面持ちで呟いている。間違いない、これはきっと大事だ…。
□
「今日より姫様は名をサリナス様と変えられる」
「合わせて!ケレトの称号も下賜された」
「「皆、姫様の御名を汚さぬよう一層の忠勤に励むのだ!」」
加代田商店の中、フウとライが十人の女性兵士達に謁見の間であった事を伝えた。そして名前を改めた事の意味を話し始めている。
「言うまでもない事だが…今一度、このライから皆に伝えおく!すなわちサリナ様の御名の語尾にスが付いた事の意味である。これは畏れ多くも初代グランダライ公の御名にあやかり…」
ライの話によれば初代公王ハウリスの名にあやかり公王の継承権を持つと認められた者は名前の語尾にスを加えられるらしい。次期公王候補度目されているのはサリナスさんのお父さんらしいが元の名をエバン、そして今はエバンスと名乗っているとのこと。いわゆる若殿という事になるが、この公国では公王以外は嫡男であろうと臣下の一人。国の為に働く、それは嫡男であろうと領民であろうと同じなんだそうだ。また、それは公王自身にも当てはまる。国の為…、その一点においては上も下もなく働くのがグランダライというお国柄であるらしい。
そしてもう一つ与えられたケレトと言う言葉、これは古い言葉で東という意味だそうだ。東のダライブルグ…、つまり公王本家に対し東の家みたいな感覚。さらには東と言っても分家扱いではなく、公国家と同格扱いというものらしい。公王本家にもしもの事があれば同格の家から…ってな事らしい。徳川幕府が後継者問題を抱える可能性を少なくすべく尾張・水戸・紀州に
つまり新たな名前であるサリナス・ケレト・ダライブルグとは『継承権を得たサリナ・公王本家同格の東にある・ダライブルグ』という意味だろうか。
(ううむ。公王家のお嬢様、そんな人と出会っただけでも凄い事だけど…)
公王…、それがここではどのくらいの地位なのかは分からないが仮に日本で例えたらその一部…例えば二つ三つの都道府県を与えられたくらいだろう。公国という領地を与えたより上位にある王国なり帝国はいるだろうけど…。
「今日より名を拝領したサリナス・ケレト・ブルグである。これまではこの城の東の城郭を守る一人の騎士に過ぎぬ私であったが、これよりは城の東の城郭を…さらには公国領内にもお預かりする身となった。皆、改めてよろしく頼む」
「「「「わああああっ!!!!」」」」
フウが、ライが…、十人の女性兵士達が完成を上げた。公王の孫娘と言えども国を守る一人の騎士であったサリナスさん。詳しくは分からないがグランダライ城東門とその城郭の守備隊長といった位置付けだったはずだ。
それが今は城の居住区に住む一族という位置から城の東城門内を領地とする立場になった。サリナスさんの地位がものすごくランクアップした訳だ。
その夜、僕はパーティを開いた。もちろんサリナスさんの新たな名前を与えられた事を祝う為の…。そのパーティはサリナスさんと十二人の配下、そして僕とルイルイさん達三姉妹…プラス二匹。
誰もが喜びを爆発させていた、そんなめでたい夜であった。
□ □ □
次回は『国主の呟き』。
お楽しみに。
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