第50話 雷堕ちてデンジ壁ドン
ダライブルグ城、東門の前で繰り広げられた僕の入城資格をめぐっての
ライはサリナさんと女性兵士達の手により加代田商店の中に運び込まれ布団に丁寧に寝かされた。アヌビスは横たわるライになんらかの魔法を使うと蘇生こそしたが苦しそうだった彼女は安らかな呼吸となった。そんな彼女の看病をしたいとサリナさんは昨夜もライと同室に泊まっていった。
……………。
………。
…。
「こちらは城内倉庫に運び込め」
「そちらは
夜が明けるとライの体調はすっかり回復したようで何事もなく起き上がりサリナさんを驚かせた。そして今、東門の内側…加代田商店の前でフウとライの声が響く、それに応じて女性兵士達がテキパキと塩を何台もの荷車に積んでいく。塩が入った大袋を一つ運ぶのにヒーコラ言っていた僕とはえらい違いだ。
その様子を見ているとある事に気付いた。東の門内にいるのは昨日言われていたように全員女性だった。しかしその種族は人間だけではない。
こちらに犬が狐だろうか…頭部には耳とお尻には尻尾が生えた種族がいれば、あちらには中学生くらいの背丈くらいしかないのに誰よりもパワフルに塩を運ぶ人もいる。
すでに取引…、魔石での支払いは終わっている。店の倉庫には魔石が詰め込まれたダンボールがたくさん積まれている。スパッと一括払いである、それもこの東門内の城郭に備蓄されていた分だけ。
それというのもこの東門内の兵士達は鍛錬を兼ねてよくダライブルグ周辺でモンスターの退治に向かうらしい。可食部のあるモンスターならそれを食料として、牙や爪に毛皮など有用な資源となるものも持ち帰る。それを城内外に流通させるのだそうだ。
「驚いているようだな」
手際良く塩を運ぶ女性達を見ている僕にサリナさんが声をかけてきた。
「実は正直…」
僕は東門内で様々な種族の人がいるのに驚いたと答えた。
「私はな…真に国を思い、力を発揮してくれる者ならば誰であろうともその場を用意すべきだと考えている。武や魔法に優れるなら兵として取り立てよう、感覚に優れるなら
「
「種族は問わぬ。他の種族は
サリナさんはブレないなあ、キッパリと言い切るあたりに好感が持てる。
「それはそうと…」
サリナさんが言葉を続ける。
「デンジ殿、塩はまだ手に入るか?」
「ええ、今回と同じくらいの量なら十日もあれば…」
本来なら三日もあれば十分だろう。だけどこういうのは間違いない猶予をもらっておいた方が良い。…それにあの塩の積み下ろしは大変だからなあ、日程ギリギリでは体がもたない。
「十日か…、ならば是非とも頼みたい。我が
サミというのは女性兵士の一人、先程見かけた一番小柄…下手すりゃ小学生レベルの背格好。しかしながら一番パワフルな人だ。なるほど、ドワーフだったのか。ドワーフといえば肉体は強靭、筋力もあるのがファンタジーの定番。手先の器用さに加え鉱物の知識が豊富。強いだけでなく職人としても優秀と聞く、鍛治だったり
「次回も支払いは魔石で構わないだろうか?」
「それはもう、願ったりかなったり」
「ふむ、そうなると…」
サリナさんは顎に手をやり何事か考えているようだ。
「ではデンジ殿、塩の購入と並行して頼みたいことがある」
「何でしょうか?」
「我々のダンジョン探索に同行してもらえぬだろうか?」
「えっ?ダンジョンに?」
「理由は二つある、一つは魔石の補充だ。いくら国庫に備蓄があるとはいえ今回の塩購入で大量に支払ったのは紛れもない事実。それゆえ集めておきたい」
「もう一つは?」
「我らの鍛錬。長らく国を空けていたからな、
「なるほど…」
「無論、その
「ううむ…」
ダンジョンか…、僕が行ってもなあ…。
「気乗りせぬか、実はそこは
「ジョウコウのダンジョン?」
「うむ、洞窟内なのに上空に太陽輝く不思議なダンジョンなのだ。それが常に…、日が沈まぬゆえ夜はない。常に昼なのだ」
「行きますッ!」
「よ、良いのか?」
「はいッ!」
行きますよ、そりゃあ行きますよ!常に昼なんでしょ?それなら二十四時間発電しまくりじゃないか!バカ兄貴の貯金を吐き出させ増設した太陽光発電パネルに蓄電池。おまけに魔石まである、発電しまくりだよ!売電したらウハウハだ。これは良い場所への同行依頼だぞ。
「そ、そうか。それは助かる」
僕が食い気味に返事したせいかサリナさんが戸惑っている。
「ところでダンジョンに向かう顔ぶれだが…、私の
「半数…」
「フウとライのうちからどちらか一人、あとは十人衆から五人。そして私の七人だ」
「それならなんとか泊まれるかな…、いや寝具が無いか…」
僕は頭を巡らせる。
「それは構わぬぞ。我々とて野営の準備…、毛布くらいは…」
サリナさんの申し出はありがたかったがこの異世界の毛布はそこまで暖かいものではない。あくまで凍死をしないように、そして寝る為のものではなく膝掛けならぬ体掛けみたいな感じ。ゆっくり
「サリナさんがここでの寝泊りで使っていた寝具で良ければ…、こちらで御用意いたしましょう」
「なに?あれほどの物を人数分用意出来るのか?」
「若干の日数をいただけましたなら…」
「む、それなら明日は公爵閣下にお目通りして
「お任せ下さい、この加代田商店に」
この時間なら余裕で発注が間に合う。早ければ明日の午後にも届くだろう。
「う、うむ…。よろしく…頼む」
「はい、お任せ下さい」
うーん、サリナさん達が七人で寝泊りする。これは宿屋みたいなもんだ、稼げる稼げる!
「よし、それではダンジョンに出向く人選をせねばな」
そう言うとサリナさんはフウとライの二人を呼んだ。
「…といった訳で三日後、常光のダンジョンへと向かう事となった。二人にはその同道する顔ぶれを選んでもらいたい。フウ、ライの二人のうち一人は私と共に、十人衆から五人。デンジ殿も共に行く」
「な、ならば私がッ!」
「ッ!?」
フウとライが同時に立ち上がろうとしたがライの方が一瞬早く立ち、大きな声で応じた。
「よしライ、同行いたせ。フウ、留守を頼む。私に代わり城をよく守ってくれ」
「…は、はい」
「人選は任せたぞ、後で二人よく相談し顔ぶれを決めてくれ。また、今回の行軍における物資類はデンジ殿にお任せいたす。両名ともそれを心して行動せよ」
「「ははっ!!」」
「ではデンジ殿、今日はこれにて…。私は今から留守中に変わった事がないか城内を見て回るゆえ失礼いたす。フウ、今から私の護衛としてついてまいれ」
「ははっ!」
そう言ってこの場を去るサリナさん、フウがついていく。
ぽつーん。
僕はその場に取り残される。いや、人はいる。忙しく働く女性達。ルイルイさん達三姉妹は冒険者ギルドに用事があるらしく今は外出中…。そんな僕の近くにいるのは…。
「……………」
青髪の女性ライ、無言でその場にいる。ちなみに兵士ではなく騎士階級であるらしい。なんて言うか…、気まずい!昨日やり合った訳だし…、それで死にかけたんだし…。かと言ってシカトするのも…ねえ?三日後には一緒にダンジョン行くんだし…。シトリーとアヌビスはコタツに入ったまま出て来ないし…。
「あ、あの…。ラ、ライ…さん?」
僕はおずおずと話しかけた。
「デ、デンジ…殿。わ、私の事はライ…と呼んで欲しい」
裏返った声でライが伝えてくる。
「い、いや、さすがに騎士の方を…」
「そんな事はないッ!」
一瞬でぐっと接近してくるライ、その青髪がぶわっと揺れ広がる。バチバチという静電気が弾ける音までしてとんでもない迫力だ。なんて言うか動く事、
「わ、私はあのアヌビスというあの子犬の足元にも及ばぬ。そのアヌビスは、あ…
い、いや、アレはアヌビスがペットフード欲しさに…。そんな僕の心中とは裏腹にライの言葉は止まらない、ますます熱を帯びていく。
「と、
「と、嫁ぐゥ!?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
「デ、デンジ殿!わ、私は幼少よりここでずっと過ごしてきてな。それゆえに、と、殿方とせ…接した事がないッ!そ、それでも良かったら…」
ぐいぐいぐいっ!
す、すごいがふり寄りだ!
ばぁん!
「か、壁ドン!?し、しかも
「デンジ殿!?まさかとは思うが…ひ、姫様ともしやッ!?」
「な、ない!そんな事はッ!」
「い、いや、構わんッ!隠さずとも!むしろ姫様が認めるような
「ひ、人の話を聞いてくれ!」
「安心せい!ライ」
「姫様!?」
なんという事でしょう、サリナさんが戻ってきている。
「忘れ物があってな戻ってきたのだ!大丈夫じゃ、ライ!デンジ殿とは何もない!」
「
「うむっ!デンジ殿とは一緒に風呂に入ろうとした事しかない!!」
「い、一緒に…ふ、風呂ォ!?」
「うむ、思わず私が服を脱いでしまってな!」
「サ、サリナさん、ストーップッ!!!」
どの方向に転がってもこの話はおかしな事になる。そう感じた僕ははサリナさんを必死になって制止するのだった。
□ □ □
次回、『風が吹いたらもう一人』。
お楽しみに。
三章冒頭にキャラクター紹介『ライ』を作成しました。
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