第27話 何をするにも金がかかる


「海の産物ものあり、山の産物ものあり。命賭ければ迷宮ダンジョンの、ピカピカピカピカ光る宝物ぉ…」


 街を歩いていると辻に立った行商人と思しき男が品物片手に声を張り上げている。そんな光景があちこちで、さらには背中に背負ったり荷車を引いたりして行き交う人々。活気あるセキザンの息遣いのようなものがそこかしこで感じられた。


 時間はかかったが無事に街に入る事が出来た。冒険者証を持っていたルイルイさん達はすんなり五百ゴルダを支払い入れたが、初めて街を訪れ冒険者証などいわゆる本人確認ができる物を持っていない僕は街に入る為に五百ゴルダの基本料金の他に本人確認手数料を合わせて料金を支払う羽目になった。その額は五千ゴルダ、このまま冒険者証などを手に入れないままだと毎回支払う羽目になるという。


「うわあ、高い。早々にギルド証を手に入れないとお金がかかって仕方ない」


 日本円に換算したら毎回五千円を吐き出す事になる、こんなのやってられない。ちなみにシトリーとアヌビスにさえ料金が課された、その額は一頭あたり百ゴルダというもの。何をするにもカネ、カネ、カネだ。


「誰もがセキザンに手数料を払ってでも入りたいのよ、商売を求めてね。だからセキザンは強気なの、黙ってても人が来るから」


「そうね。その集めたお金でセキザンはさらに街を大きく、より多くの傭兵を集めるのよ」


「そうしてセキザンはより強固な都市となっていく」


 三姉妹が商業都市セキザンの仕組みを教えてくれた。うん、早いとこギルド証を手に入れて稼ぐ算段を確立しないとね。



 僕は初めてセキザンの街に来たので当然右も左も分からない。そんな僕を三姉妹が案内してくれている。


 まず訪れたのは商業ギルド、そりゃそうだよね、僕は戦うすべを持たないのだから。そんな僕の人と違うところを挙げるとすれば店舗兼住宅を呼び出せる事、さらに日本からの品物を持ち込める事。だったらこれを使わない手はない。


 そう思って商業ギルドに行ってみたのだが…。


「…な、なんだって…。か、加入金五百万ゴルダだって?」


「はい、そうなります」


 独特の語尾が上がる発音で受付嬢が取り付く島もない様子で言った。僕の手持ちは二十九万五千ゴルダ、とても足りない。


「うーん、とても払える金額じゃない…」


「そうでっか。ただ、ここセキザンは貴族とかの紹介後ろ盾は必要ありまへんのや。せやから代わりに金がモノを言いますのんや。ないならそれまで。ほな、さいなら」


 受付嬢は急に冷たくあしらってくる。


「なら、買取は?胡椒こしょうがあるんだけど」


 僕はいったん加入は諦め物を売る方向に舵を切った。ここは異世界モノの定番、胡椒を売って金を稼ぐのを試してみよう。


「…胡椒こしょうでっか?」


 ちらり。ホントに持ってるの?アンタが?…受付嬢がそんな視線を向けてくる。


「まあ、とりあえず出してんか」


 受付嬢の態度は相変わらずだがとりあえず見る体勢に入った。僕はリュックからビンに入った粒胡椒を取り出した。


「ビン入り…」


 受付嬢が呟いた。


(…そうか、異世界は全て手作り。こんな機械成形の、しかも透明なビンなんてないはずだ。たたみかけるなら今だ)


「ちなみにこうやって…」


 リュックから紙の皿を出し、胡椒のビンを逆さまにしてミル部分を捻ると粉砕したての香りの強い粗挽きになった胡椒が積もる。


「しょ、少々お待ちを…」


 受付嬢がギルドの奥の方に駆けていった。


「誰か上役でも連れてくるのか…?高値で売れたら良いな」


 僕はそう願いながら呟いていた。



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