第25話 商業都市セキザンに到着


 ラミリアさん達と別れ商業都市への移動を再開した僕達、たまにゴブリンがいたようだがメイメイさんが向こうより先に気づき先手を打ってこれを殲滅。僕はその間は店舗を出現させ待機していた。


 そんな順調な道中、明日には目的地セキザンに到着という時に半日ほど雨が降り続いた。山中でもあり外はとても肌寒い。こんな時はもちろん無理せず店舗内で過ごす、安全第一これ大事。ラミリアさん達と出会った場所はセキザンよりマウローの街の方が近かったから無事に到着しているだろう。


「改めて思うわ、とんでもない能力よね」


 寒かったので僕は納戸からコタツを取り出してきた。そこに足を入れつつ、ため息を吐きながらルイルイさんが呟いた。


「外は雨、山道にそうそう雨宿りに適した場所がある訳じゃないし」


「いつでも高級宿に泊まれるような感じだよ」


 一緒にコタツに入るメイメイさんとアイアイが賛同する。ちなみにシトリーとアヌビスはコタツの中、いくら呼ぼうとご飯の時以外は外に出てこない。


「気に入った、妾の居所きょしょ(本拠ではないが住まう場所)とする」


 コタツに入るなりシトリーがそんな事を言っている。もっとも僕以外にはニャーと鳴いているようにしか聞こえていないようで三姉妹はそれを微笑ましく見ている。アヌビスもアヌビスでコタツを気に入ったようで『この野良猫がいなければ楽園そのものであろうに』なんて言っている。そんな中、僕はこの道中で考えていた事を聞いてもらう事にした。


「実は僕、どうやって暮らしを立てるか…。稼いでいくかって考えていたんですけど、ある程度まとまったんで聞いてもらえますか?」


 そう言って切り出した僕の話はごく簡単、宿屋と品物の販売をするというものだった。


「それ、良いと思う!」


 アイアイが即座に声を上げ、残る二人も同意する。きっと上手くいくよと言ってくれる。何より商業都市は商人の街、稼ぐ事は何よりの美徳とされるらしい。そうなれば買いたくなるような物や利用したくなるような物を用意する必要がある。ルイルイさんたちによれば僕が用意した食べ物も、寝泊りしたこの店舗兼住宅も素晴らしいものだと言う。


 彼女達三姉妹がそう言うのだから…、僕は自信のようなものを持つに至るのだった。



 雨も止んで翌日、僕らは再び歩き始めた。途中ですれ違った旅人や冒険者は疲労の色が濃く、中には服や荷物が濡れていたり汚れている人も珍しくない。きっとあの雨の中で夜明かしをしたのだろうか。反対にこちらは元気かつ清潔そのもの。お風呂と洗濯、さらには暖かい部屋と布団があるのだ。


「デンジさん。戦いや探索するだけが冒険者ではないの。移動や休息、体調の管理や安全も含めて冒険者よ」


 ルイルイさんが話している。あれ?そう言えばラミリアさんは僕をデンジロウさんと呼んでいたっけ。この世界の人はデンジロウと発音しにくいみたいだそうだけどラミリアさんには出来ていた。もしかするとこの異世界で人類が使う共通語とラミア族独自の言語を使えるラミリアさんはデンジロウの発音が苦ではないのかも知れない。


「そうよ、体調悪くてもモンスターは待ってくれないんだから!」


「確かにそうですよね。普段は強い敵でも不意をついたり弱らせたりして戦えば有利になる」


 戦国時代とかでも奇襲とか夜襲とかで大軍を破る話はある。他にも水攻めや兵糧攻めで強固な城を攻略するなんてのもあるんだし。だから野営でも見張りを立て冒険者達は交代で休み寝込みを襲われないようにしているんだ。


「このお店がセキザンで商売を始めたらきっと話題になるわよ。たちまち人気店ね」


 そうだといいな、そしてたくさん稼げれば…。日本でたちまち大金持ちだ、そんな事を考え歩き続けると海…というか大きな湾に面した大きな街が見えた。ただの海では自然の影響をモロに受ける。しかし湾ならそれを和らげる事ができるし、大きいとなればなおさらだ。


 近づいていくにつれ街の周りには水濠すいごうまで巡らされている事が分かる。ははあ…、どこの国にも属さず商業の街としてだけではなく自治都市としての顔もあると聞いていたが…。こんな大きな街を丸ごとぐるっと水濠で囲うなんてどれだけの財力と人手が要るだろう。ただの商売するだけの街じゃないな、周りにここを手に入れたい国々があるだろうに自治を続けてきた…、これは戦う都市でもありそうだ。


 そんな光景を見ながら僕達は街の入り口たる大きな門の行列に並んだ。街に入るには必要な手続きがあるらしい。街の中からは活気ある声や物音がここまで聞こえてくる。


 なるほどこれがセキザンか、僕は気持ちも新たに三姉妹と共に列に並ぶのだった。





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