第24話 日本のお金に換金するには?


 街道脇で出会ったラミアの女性達、上半身はともかく長い蛇の下半身は暑さ寒さに弱いらしく少し暑くなった中での山道は僕ら人間以上に体にこたえるものであったらしい。


 ちなみにラミリアさんの言葉が流暢りゅうちょうなのは人間の街を何度も訪れ言葉に慣れたからだそうだ。他のラミア達の言葉が辿々たどたどしいのは彼女達が今回初めて人間の住む街を訪れるからであり、経験を積めば違和感は感じなくなるだろうとの事。


 そう言えば昔、英語が流暢に話せるとあるプロレスラーが若い頃にアメリカ修行に行った時の話をしてたっけ…。渡米する前に週数回の英会話スクール通いは役に立たなかったけど、現地に行って一年過ぎたら日常会話を出来るくらいにはなったと。それと一緒なんだな、必要に迫られそれしかない状況になると嫌でも身につけるしかないみたいなやつかなと思いながらラミリアさんに接していると水筒や水袋への補給が終わったようだ。


「助かりましたわ。これで明るいうちに移動を再開できます」


「いえ、こちらこそ良い取引ができました」


 ラミア族のラミリアさんとそんなやりとりを交わす。


 僕にしてみれば蛇口を捻れば出てくる水を魔石と交換してくれて僕は内心ホクホクとしていた。なぜならこの魔石で燃料蓄電池に充電ができる。加代田商店は蓄電した電気を自家消費すると共に余った分は売電している。


 異世界に来た僕だけど日本の物はきっと大人気になるだろうと確信していた。しかし、一つ問題がある。それは貨幣だ。それというのも異世界で稼いでもその貨幣は日本の貨幣とは違う。だから単純に日本の物を異世界に持って行って売っても異世界の通貨が増えるだけ…、日本で使えるお金が増える訳ではない。そうなると日本で品物を仕入れれば仕入れるほど僕の手持ちのお金が減っていくのだ。


 しかし、電気を作って売れば収入は得られる。しかもその太陽光発電の効率はとんでもなく良い。燃料蓄電池の残量計の上に置いた魔石が燃料蓄電池に吸収され電力が蓄えられた事や、魔素と呼ばれる魔力の元になるものが万物に含まれるという異世界の太陽光の発電効率から考えるとおそらく魔力を含んだものは僕らの世界でいう電力とかエネルギーに相当するものなのかも知れない。


 一般家庭の倍は電力消費をする加代田商店、その燃料蓄電池が異世界の太陽光なら一時間程度でフル充電だ。加代田商店の電力消費は季節によっても異なるが、一日に燃料蓄電池の三割前後だ。だから一般家庭なら15か16パーセントもあれば事足りるだろう。むしろこんな凄い発電効率を得られる異世界のエネルギー事情…、使わないなんてもったいない。僕はラミリアさんから受け取った魔石を見ながらその思いを強くする。


 総勢11人、彼女達が各自の水筒と共有の大きな革袋に水を詰めている間に僕はラミアの人達に冷たい紅茶を勧め、休憩がてら話をした。もしかすると何気ないやりとりから思わぬビジネスチャンスが転がってくるかも知れないからだ。


「それでは皆さんはマウローには商売あきないに…?」


「はい。薬の材料になる物を卸しに参ります」


 この異世界には様々な種族がいて中にはその種族独特の特性とか技能を有する事があるらしい。ラミリアさん達ラミア族は薬の材料になる動植物に詳しいらしく、それをかして素材を採取して街で販売し代わりに生活物資を購入して帰るという。


 どんな物を欲しているか聞いてみたら包丁や鍋などをいくつか新しくしたいそうだ。ラミア族は暑さ寒さに弱い、だから彼女達が住む集落には職場が高温になる鍛治師がおらず金属製の品物は他所よそで買うしかないらしい。


「あの…、鍋はありませんが包丁なら…」


 そう言って僕は店にあった万能包丁をラミリアさんに見せた。


「扱いやすくよく切れそう…。ですが、かなりの薄作りですわ。分厚い物を切っての耐久性やさびたりとかを考えると…」


 ラミリアさんは握りの良さや刃の鋭さは良いみたいだが、刀身の薄さを気にしている。


 …そうか、ルイルイさん達がサンダーバードの肉などを切り分けるのを見たが肉厚な刃物だった。スーパーなどで数百グラム程度の肉を買ってくる日本人的な感覚ならそれで十分かも知れない。だけどここは異世界、狩猟ささた鳥獣を一匹まるまる切り分けたりする事もある。そのあたりを考えると僕らの世界の包丁は華奢きゃしゃすぎるのだ。


「そうですか…、残念です。ほとんど錆びない材質なんですが…」


「錆びない鉄…ですか?」


 僕の呟きにラミリアさんが反応した。


「ええ、鉄とはちょっと違いますが」


「それは魔鉄では…?」


「魔鉄…?」


「もし錆びないのでしたら…7万…、いえ8万ゴルダで買いたいですわ。…いかがかしら?」


「え、ええ、それは良いですけど…」


「では…」


 そう言うとラミリアさんは持っていた荷物から何やらボトルを取り出し中身の赤黒い液体を一滴包丁に垂らした。


 ぽたっ。


 何かは分からないが液体を垂らした包丁の刀身を見てラミリアさんが目を大きく見開いた。


「………ッ!?信じられない、アシッドフロッグの血液に触れて腐食どころか黒ずみもしないなんて…。まさにこれは本物…」


 思わずといった感じでラミリアさんが呟きを洩らす、さらに周りのラミア族達もざわざわとざわめいた。


「そんなに珍しいんですか?その包丁」


「包丁自体は珍しくはありません。…いえ、変わった形とは思いますが…。それより驚きなのは錆びなかった事にあります。刀身に落としたこの液体はアシッドフロッグという大きなかえるの血なんですが別名『戦士泣かせ』…」


「戦士…泣かせ?」


「実はこのアシッドフロッグの血は薬の材料にもなるんですが、同時に鉄を腐食させやすいんです。ですから戦士がこの蛙と戦い、その血に触れると武器が損傷いたむ…」


「なるほど、だから戦士泣かせ…」


「私達ラミア族にしても泣き所なんですよ。交易の品となる薬の材料なんです、そのアシッドフロッグの血液は…。ですから包丁やナイフは必須…」


「ああ、血を採取する為に包丁を使うとその包丁が錆びちゃうと…」


「ええ、その損耗が馬鹿にならないのです。デンジロウさん、ぜひこれを譲って下さい!それと、まだこの包丁の在庫はありますか?」


「いえ、これ一つしかなく…」


 普段なら三千円で売っている包丁が8万ゴルダで売れた。魔石での支払いも良いと言うとこれも喜ばれた。魔石は街で売る事も出来るがその際には手数料がかかり割安になる。その手数料を僕は取らない、彼女達にはそれも嬉しかったようだ。


 魔石での支払いOK、これを認めていくとなるとやはり冒険者が客になる。しかしマウローの冒険者ギルドで一悶着ひともんちゃくあったからなあ…。どうしたもんだろうか…。

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