第20話 逆回転(リバース)の魔法陣


 パソコンの画面にあった魔法陣の図柄と下に添えられた『傳次郎へ…』の文字。あんな兄だが今はわらにでもすがりたい、マッドサイエンティスト気質はあるが理系の知識はあるし何よりこの異世界転移の元凶だ。


 ハッキリ言って異世界という地球からはるか距離が遠い所なのかあるいは次元が違うのかは分からない。しかし、自宅のパソコンに添付ファイル一個送り付けるだけで僕を異世界転移させたんだからとんでもない事をやってのけた事は間違いない。そんな兄が送ってきたなんらかのショートカット…、きっと何かある。


 カチカチとマウスをいじると画面が暗転、そしてBGMが流れ始めた。某有名RPGのオープニング曲だ。


傳次郎でんじろうへ、愛を込めて…。兄より』


「ッ!!?ク、クソ兄貴がぁ!!」


 画面に浮かんだ文章を見て僕は思わずいきどおりを口にした。何が愛を込めて…だ!問答無用で人を実験台にしやがったクセに!


 そんな僕の憤りをよそに画面の文字がスクロールし始める。


『これを見ているという事は傳次郎、お前は今異世界にいるのだろう。そちらでの状況はどうだ?危険な目には遭っていないか?』


「何が危険だ!兄貴が僕を異世界に放うり出したんじゃないか!」


『この異世界転移プログラムは一回の実行に多大なエネルギーを消費する。概算がいさんだが、おそらく店舗備え付けの燃料蓄電池の50パーセントを食うだろう。その残量では異世界転移後、電力は二日ともたない』


「ムカつく兄貴だけど、…凄いな。昨日、残りの電力量を確認した時の数値から逆算するとだいたい予想通りじゃないか」


『だが心配は無用だ、異世界に…少なくとも生態系が形成されている所なら太陽は必ずある。それで燃料蓄電池は充電されるだろう。それで家電は使える、暮らしていくには問題ないだろう』


「…兄さん」


『もし、その異世界に太陽が無かったら…スマン』


「ッ!!?」


『お前は今、【無かったらじゃねえよ、無かったらじゃ!!】と言う

「オイーッ!!無かったらじゃねえよ、無かったらじゃ!!…ハッ!?」


『憤りは分かる。だが、この添付したプログラムを実行してみてくれ。これは蓄電池の残量が50パーセント以上あればコレは実行はしる。地球に戻る事が出来るプログラムだ』


「ち、地球に戻れる…?蓄電池は…フル充電状態だし、帰れるモンなら帰ってみたい」


『傳次郎、お前の無事な帰還を心から願っている』


「………」


『追伸。ネコ耳巨乳少女とか、のじゃロリ少女とお近づきになっていたら是非俺に紹介してくれ』


「こんの…、クソ兄貴がぁ!!」


 俺が怒りを炸裂させたところで兄貴からのメッセージのスクロールが終わった。同時にBGMも鳴り終わった。無駄に芸が細かい。そして今度は軽快なBGMが流れ始め画面が変わった。


▶︎そして異世界へ…(異世界に行く)

 過ぎ去りし地球ほしを求めて(日本に戻る)

 表示速度を変える(メッセージスピードの変更)

 復活する呪文(パスワード機能)


「…もう何も言わない」


 僕は『過ぎ去りし地球ほしを求めて(日本に戻る)』を選択しマウスをクリックした。すると例の魔法陣が画面に映り、同時に足元にも浮かんだ。しかし、一つだけ前と違う事がある。


「か、回転が…逆だ!?」


 異世界に転送された時、この魔法陣は時計回りだった。だけど今はその逆、反時計回りだ。


「フシャアッ!!」

「クォルルル!!」


 飛び起きたシトリーとアヌビスが警戒するように吠えている。次の瞬間、部屋が強い光に満たされたのだった。

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