第18話 容赦ない『ざまあ』を三人に


「やなこった」


 僕は即座に言ってやった。ギルドマスターは意外だったようだがすぐに表情を整えて口を開いた。


「俺だってその尾羽に一つや二つ願ったところで叶うなんて思っちゃいねえ。だが、その力が本当だってならその力を見せて欲しいんだ」


「断る。なんで僕やここにいる子猫と子犬を殺してでも身ぐるみ剥がそうとしたヤツを助けてやらなきゃならないの?アンタ、頭おかしいんじゃない?それって討伐したゴブリンとか盗賊を元に戻してやれってのと同じじゃないか」


「む、むぐぐ…」


「なにが『むぐぐ…』だ!そんなヤツらここに戻ってもロクな事はしないだろ!むしろ恨みをつのらせて再び襲ってくるのが目に見えているじゃないか」


「そ、そんな事はさせない」


「やってんだよ、もう!盗賊や山賊顔負けの事を!人里離れた所でコッソリとかじゃなく、街中で…しかもギルドの中でだ!アンタが目を光らせてる筈のこの中でな。僕がここで襲われてる時、誰も助けてくれなかったばかりか止めもしなかったのに!」


「そりゃ金ももらわず、依頼も受けてねえからだろ」


 冒険者の一人が言った。


「そうか、それなら僕も一緒だ。何の報酬もナシに人を使おうとするな。それにケガとかを治療するのなら神殿にでも行って回復魔法を頼むんだろ?それなりのお布施を払ってさ…、知ってんだよ。あまり人をナメるな!」


「なら報酬を出す。それなら…」


「嫌だと言っている。それに今になって初めて報酬について口にしたな?つまりタダで使う気マンマンだったんじゃないか」


「どう考えても無理な相談ね、デンジさんの言う通りだわ」


 ルイルイさんがこちらに歩いてきた。メイメイさんとアイアイも続いた。


「私達、ここを抜けるわ。こんなんじゃ私達もいつどんな目に遭うか分からないもの」


 ルイルイさんが肩をすくめて見せる。


「それに報酬って言っても…ねえ?そんなに出せないでしょ?」


「神殿と同額くらいは…出す」


「それってケガの治療でしょ?相場で5万ゴルダ、そんなレベルの話じゃないじゃない!」


 アイアイが話に加わった。5万ゴルダ、日本円で五万円くらい。それで戻せとは…ね。


「それにヤツらには悪い印象しかない。だから嫌だ」


「なら、倍出す!10万だ、その尾羽に願ってあの三人をここに戻してくれたら10万、三人で30万だ。やってくれ」


「嫌…」


「やってやれ」


 嫌だと言おうとしたら子猫…、もといシトリーが声を上げた。


「え?」


「やってやれと言っておるのじゃ。おい、犬コロ…耳を貸せ」


 ごしょごしょとシトリーがアヌビスに耳打ちにするようにしている。


「この野良猫の言う事に耳を貸すのはシャクだが…、彼奴きゃつらをこの地に還してやっても良い。我もそこまで度量が狭くはないのでな」


「ただし、この地に還す事だけを条件とするのじゃ。後は何もやらんと念を押せ、報酬も即金じゃともな」


 僕は言われた通りにギルドマスターとやらに条件をつけた。ギルドマスターはあくまで成功報酬…、三人がここに戻れたら報酬を持って行って良いと言う。つまり尾羽に願うだけならばタダでやらせようと言うのだ。ギルドマスターはしぶしぶではあったが報酬を用意した。銀貨が三十枚、それを丈夫そうな麻袋に入れカウンターに置いた。


 いよいよ尾羽に願うという事になったのだが具体的には何をしたら良いのか分からない。


「どうでも良い、その尾羽に手でも添えれば良かろう」


「うむ、地に還すのは我がやる」


 まあ、それなら…。僕は胸に…、尾羽に手を添えた。


 するとギルドの床に白い光が浮かび上がり、例の三人が現れると光は収まった。


「急げ、金を収めるのじゃ!」

「長居は無用だ」


「う、うん」


 僕は二匹が言った通り素早く銀貨の入った麻袋を手にした。


「毎度あり、それじゃ」


 僕はギルドを後にしようとする。


「お、おい、待て!これをどうするつもりだ!?」


 ギルドマスターが床を指差す。そこにはダン達三人が戻ってきていた。だが先程と違って鎧や武器などは身につけていない、お情け程度に下着だけは着ている…その程度だった。


「い、痛え〜ッ!!」

「し、死ぬゥゥ!」


 両腕を飛ばされたダンと、利き腕を失った二人が床を転がり悲鳴を上げ苦痛を訴えている。…そうか、シトリー達が僕に条件をつけさせたのは…?その理由を僕なりに解釈してギルドマスターに返答する事にした。


「どうもしないよ」


「何だと?」


「言ったじゃない、僕はここに戻るように祈る。それで三人が戻ったら報酬を受け取る。それだけ、…それだけだよ」


「な、ならコイツらの腕を…」


「絶対にやらない」


 僕はキッパリと言った。


「文句は無いでしょう?あとはそちらで…、そんなに腕利きで大事な冒険者三人組だと言うならギルドが治療してやれば良いじゃない。神殿にお金出してさ」


「こ、こんな重傷を…。しかも四肢切断だぞ。再生リジェネレーションの魔法を使える司祭はいるがかなり高位の存在だ。この街にはおらん、王都にでも行かなければ…。それにどれだけの布施をしなければならないか…」


「知らないよそんな事、どうぞご勝手に」


 そう言って僕は冒険者ギルドを後にする。当初はギルドに、加入しようとは思ったが、これでは無理だろう。入れたにしても好印象は持たれない。


「地獄から戻ったは良いがあの三人…、これからがまさに生き地獄じゃの。命さえあれば…と言う者もおるがアレでは満足に暮らせまい」


「神族に刃を向けたのだ、まさに神罰である」


 小さな二匹がそんな事を言いながら僕についてくる。それにしても冒険者ギルドへの登録はもう無理だろうな、かと言って商人ギルドなんて加入条件が厳しそうだし…。これからどうしたら良いんだろう…。ギルドを出て見知らぬ異世界の街の中、僕はそんな事を思った。

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