第15話 冒険者ギルド。テンプレは向こうからやってくる

 森を抜けると一気に視界が開けた、起伏のあまりない平坦な土地。その先に建物が群がるように建っているのが見える。


 街の名はマウローというそうだ。


 ルイルイさん達に連れられて僕は街へと入る。門番らしきものはいたがラノベでよく見かけるような街に入る者を詮索をするような事はなく、入場料を取られるような事もなかった。その事を口にするとルイルイさんが応じた。


「ここは王都と商業都市の中間くらいにある土地なのよ。だけど他にも経路ルートはある…、この辺りは特に目立った産業はない土地だから下手に通行料みたいなものを取ったら…」


「あ、なるほど。そしたら今までここを使っていた人達が通らなくなる…。するとここにお金が落ちなくなって…」


「そういう事、さすが一廉(ひとかど》の商人ね」


 ふふ…、ルイルイさんが微笑む。


「そ、そんな…。僕なんて…」


「謙遜する事はないわ。デンジさん、貴方はもう店を構えてるじゃない」


「えっ?」


「店を構えるってそれほど凄い事よ。確かに商売あきないで身を立てる事をこころざし行商から始める人もいるわ。だけど全員がその夢を叶えるわけじゃない。店を持つ、城を持つ…とまでは言わないけど舘を構える騎士くらいの力はあるわ。貴方はそれをしているのよ」


「しかもそれが広い場所ならどこでも出せるんだから…。見た事がないものもあるし、泊まってみたら快適だし…。変わった部屋だったけど高級宿でもなし得ないわよ、あのお風呂とか…」


 メイメイさんもアイアイも加代田商店の店舗兼住宅と生活環境を高く評価しているようだ。


「いずれにせよデンジは商人だし、地上にいた方が良いみたいだからギルドにでも登録に行く?」


「えっ、ギルドに?」


「そう、ギルド。デンジは商人でしょ?だったらいろんな人と伝手つてはあった方が良いよ。物を仕入れるにしても、売るにしてもね。自分が知っている、または知られている相手ってどんな稼業にも大事だと思う。私達は冒険者だもん、信用できないウラのある依頼なんて受けたくないもんね。命に関わるから」


 そりゃそうだと僕はアイアイの言葉に頷いた。


「まあ、中には報酬に目がくらんで危ない依頼を受ける人もいるわ。でも、だいたいロクな目に合わないわね」


 さらにメイメイさんが付け加えた。


「でも、いきなり商人ギルドに行って大丈夫かしら?店を構えるような商人としての登録なんて珍しいんじゃなくて?後見人とか保証人、あるいは実績…そんなものが必要になるんじゃないかしら」


 さすがルイルイさん、大人の女性。落ちついた物言いに漂う気品。頭も切れるし憧れちゃいます。


 そんなやりとりをしているとたどり着いたのは木造の二階建ての建物。なんて言うか実用的な…、飾りが一切ない殺風景な建物だった。広さは小中学校の体育館くらいだろうか、西部劇に出てくるような両開きの扉から入ると酒と何かの肉を焼いたような匂いが鼻をついた。


 それもそのはず、冒険者ギルドには食堂と酒場を兼ねたものが併設されているようだ。丸太を輪切りにしたものを天板にしてそのまたあしをつけたようなテーブルに酒や料理を広げているグループなどが見える。


 三姉妹はそちらに目もくれず入り口から奥に向かって正面奥、カウンターに歩を進めていく。僕はと言えば金魚のフンよろしく後をついていった。


「お帰り、三人とも」


「無事に帰ったわ。ところでミッコ、新しく…」


 きっとギルドの受付嬢だろう、三人を出迎えたカウンター内の女性にルイルイさんが僕を紹介しようと口を開いた。しかしそれを遮るようにミッコと呼ばれた女性が言葉を挟んだ。


「あ、ちょっと待って。三人が戻ったらすぐ顔を出してくれってマスターが…」


「ギルマスが?」

「なんだろ?」


 ルイルイさんの後ろで立っていたメイメイさんとアイアイが短く疑問を口にした。


「それじゃ、なんにせよすぐに行かないといけないわね」


 ルイルイさんがこちらを振り返った。


「デンジさん、ごめんなさい。ちょっと顔出ししてこないといけないみたい」


「大丈夫ですよ。ギルドマスターが呼んでいるって事は余程急ぎか大事な用件な気がしますし…。僕ならこの辺で時間をつぶしてますから」


 そう言って僕は三人を送り出した。ギルドマスターという人は二階にいるのだろう、三人はカウンター横の上り階段から二階に向かった。


 見送った僕はカウンター近くの壁にある掲示板を見た。文字自体は見た事がない、だが読める…気がする。なんて言うか、少しアレンジを加えたアルファベットのような文字だ。それをローマ字のように対応させている。だからだろうか、読めている…意味もこうなんじゃないかと推し量れている。


『王都までの塩商人の護衛…21万ゴルダ』

『助っ人(敵討かたきうち)…15万ゴルダ』

『ゴブリン討伐…5匹につき一万ゴルダ』


 うん。読めているし、詳しい難易度は分からないが依頼内容と報酬の額との釣り合いも取れている気がする。


 他にもどこどこで大型モンスター目撃とか◯◯商会で新型のプレートアーマー発売とかお知らせ的な事が掲示されている。


 この世界の文字も読めると確信した僕は暇つぶしに丁度良いし、異世界とかこの街の情報収集の役にも立つかと思い全部読んでやろうと考えた…その時である。


 ドン。


「おっと…」


 横から何か硬いものがぶつかってきた。そちらを見ると鉄の鎧を着た大柄な男だ。少なくとも僕より頭一つは大きい、部活ならバスケかバレーボール部にウチの部に入らないかと勧誘を受けそうだ。もっともスリムと言うよりはガッチリしてるから柔道部とかからお呼びがかかるかも知れない。


「よぉ、お前」


 男が話しかけてきた、あまり好意的ではないようだ。


「見ねえ顔だな、ガキみてえだし新人か?あの三人と一緒に来たがどういう関係だ?」


 聞きたいことがあるなら質問する、だが人にぶつかってきて自己紹介もなしに一方的に聞くか?物には道理があるんだ。


「ああ?何を黙ってやがる!?テメーは俺が聞いたら黙ってハイハイと言う事を聞きゃあ良いんだよ!」


「へっ!ビビッてんじゃねえの?」

「やけに綺麗なおべべ着てどっかの坊ちゃんかあ?オイ!?」


 男には二人の連れがいて好き勝手に煽ってくる。正直怖い、街でいきなり絡まれるようなモンだ。ドキドキと胸が打ち、自分の足で立っている感覚がなくなってくる。


「聞いてンだよ、オイ!!黙ってンだけならカカシでもできるんだよ!俺様が聞いてンだ、時間取らせンじゃねえ!」


「ああ、待たせた分の迷惑料取ろうぜ!」


「それサンダーバードの羽だろ、俺がもらってやんぜ!」


 多分こいつらは僕が何を言っても難癖つけてむしり取る気だろう。助けを求めようと周りを見るが助けようとする者はいない。


「助け求めたって無駄だ!冒険者ってな自分の腕一つでどうにかすンだよ!誰も来ねえ、テメーが出来んのは土下座して全財産出すか俺様にボコられて全財産出すかだけなンだよ!」


 そう言うと男は僕の胸ぐらを掴み拳を振り上げ遅いかかってきた。まずい、掴まれていたんじゃ避けようがない。どんなに不格好でも良いから床を転がってでも逃げなきゃ…と思ったがこれじゃそれすら出来ない。


 バァン!!バァン!!


 凄まじい音がすると僕の目の前に何かが飛び込んだ。


「ぶるおああああッ!!?」


 次の瞬間には男が吹っ飛び床を転がった。な、何があったんだ?


 くるくるくるっ…スタッ!

 ふわ…ふわ…。


 吹っ飛んだ男の代わりに僕の目の前に現れたのは綺麗な空中回転の後に着地した子犬、そして羽を使っていないのに宙に浮く子猫、森で出会ったあの二匹であった。

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