第14話 それって本当に子猫と子犬なの?


「あれ?デンジー?いないのー?」


 店の方からアイアイの声がした。


「「ッ!?」」


 ガサッ!ガサッ!


「あっ?」


 急に猫と犬が僕の手を離れ近くの茂みに飛び込んだ。やはり野生の生き物だから人間に慣れていないのかな?


 とにかく二匹は森の奥に逃げ去ってしまい後には青い鳥だけが残された。アイアイの声がした事もあり、僕はとりあえず店の方に戻る事にした。



 店に戻るとルイルイさん達三姉妹が無事な姿で戻っていた。


「お帰りなさい」


「あっ、デンジ。どこにいたの?」


 アイアイが問いかけてくる。


「うん、ちょっとそこの茂みに…」


「茂みに?どうして?」


「なんか動物の鳴き声がしたんだよ。そしたら子猫と子犬がケンカしてたんだ。エサの取り合いと言うか…、だからエサをあげたんだよ。ケンカを止めようと思って」


「そうなの?だけど、モンスターも出る森よ。よく子犬と子猫が無事で生き残れて…、奇跡だわ」


「親犬や親猫はいなかった?」


 アイアイの問いに応じているとルイルイさんやメイメイさんが問いかけてきた。


「多分、いなかったと思いますけど…。いたら一緒にいるだろうし…」


「そうね。そうなるとその二匹は運が良いわね。子犬や子猫が獲れる獲物なんてなかなかいないもの。ちなみに何を獲っていたの?」.


「あ、鳥でした」


「「「は?」」」


 三姉妹の声が綺麗にハモる。


「いやいやいや、デンジ…それはないわ」


「えっ、どうして?」


「どうしてって…、獲物の鳥をめぐってケンカしてたんでしょ?」


「うん」


「考えてみて、鳥は飛べるのよ?それを体が十分に成長していない子犬や子猫がどうやって捕まえるのよ?力やスピードなんて大してないでしょ」


「い、言われてみれば…。で、でも、本当に…」


 そう言って僕は茂みの方に走った。そこには先ほどと変わらず青い鳥が一羽、地面に横たわっていた。


「ほ、ほら、そこに!」


 僕は後ろをついてきた青い鳥を指差した。


「こ、これ…」


「え、ええ…。サンダーバードね」


 普段冷静なルイルイさんが動揺している。


「サンダーバード?」


 聞き慣れない単語に僕は首を捻った。


「サンダーバードは文字通り体の周りに雷光をまとった鳥よ。迂闊うかつに近づくとその雷光に身を焼かれると言うし、何より動きが速い事で知られるわ。…だけど」


「ええ。このサンダーバード、爪跡つめあともなければ噛み付かれた跡もない…。どうやって仕留めたのかしら…?」


 ルイルイさんとメイメイさんが難しい顔をしていぶかしんでいる。


「ねえ、デンジ?キミが見たのってホントに子猫と子犬だったの?」


 アイアイが僕の顔を覗き込むようにして言った。


「う、うん」


 なんだろう…。子猫には背中に翼があったとか、子犬は首から胸元にかけて青地に黄色やら緑の体毛だった事とか言わない方が良いかな。なんて言うか…、『そんな子猫と子犬がいるか!?』って言われそうだし…。よし!子猫と子犬については詳しく言わない事にしておこう。


 ちなみに子猫と子犬が獲ったと思われるサンダーバードだが僕の所有となった。エサを与える事で二匹の争いを止め、その二匹の姿はサンダーバードを残して姿を消した…だから残ったそれは僕の所有となるのが自然だろう。そんな理由だった。


 獲物の解体ができない僕に代わり、アイアイ達がサンダーバードを解体してくれた。解体して得たものはそれぞれビニール袋に入れて冷蔵庫に。


「それから、これは大事に持っておくのよ」


 アイアイが一際ひときわ長い青い羽を僕に手渡してくる。


「これは?」


「サンダーバードの尾羽よ。身につけていると幸運に恵まれるって言うわ」


「幸運を?へえ…」


「私達冒険者もだいたいなんらかのお守りを持っているものだけど、サンダーバードの尾羽は特別よ。みんな、うらやましがることうけあいね」


「なら身に着けていた方が良いのかな?良い事なら起こって欲しいし…」


「それならこうやって…、つけときましょ」


 そう言うとルイルイさんは僕のシャツの胸元、ボタンを留める穴にサンダーバードの羽を差した。当然、僕とルイルイさんの距離は近づく。


 …うーん、良いな。僕も結婚したらこんな風に奥さんにネクタイしてもらったりとか…、それがルイルイさんみたいな美人さんならなおの事…。…いかんいかん、妄想がはかどってしまって…。


 とりあえず視線を胸元のサンダーバードの尾羽に戻した。お守りか…、サンダーバードっていうのは幸せの青い鳥みたいなモンだろうか?だけど…、この鳥自体は幸運には恵まれなかったのかも知れない。なんたって子猫と子犬に狩られたのかも知れないんだから。


 …そう考えると『コレお守りにして大丈夫なのか』なんて思ったのだが、とりあえずそのままにしておく。この尾羽が綺麗なのは間違いないところだったからだ。


 四人で少し休憩してから移動を再開する。しばらく歩くと目的地が見えてきた。


「あれが私達が拠点にしている街よ」


 そこにはやはりと言おうか、よくある異世界モノの中世ヨーロッパ風の街並みがあった。

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