第1章 冒険者ギルド、小さな二匹の大暴れ

第10話 遭遇、ゴブリン(ただし主人公は戦わない)!


 二時間はかからなかったと思う、三人の後をついていくような感じで僕は人生初の洞窟探検のような気分になりながら地上へと向かった。手には店の壁に備え付けてあった懐中電灯、急な停電などに備えていたものだ。


「なかなか便利そう。魔法を使えない冒険者パーティが欲しがるわよ、きっと」


 初めて見る懐中電灯にそんな感想を言うメイメイさん。


「いいえ、魔法を使える者がいても欲しがるんじゃなくて?魔力もまた有限よ、魔法使いの魔力を温存する為にも持っていたら何かと便利なんじゃないかしら」


 明かりの魔法を使える魔法使いのルイルイさんだが懐中電灯の有用性を認めているようだ。


 僕達は特にモンスターにも他の冒険者達とも遭遇する事なく地上へと辿り着いた。魔法や懐中電灯の光とは違う太陽の光、それを浴びる事ができて解放感に満たされる。大きく背を伸ばし深呼吸をした。


 そのままの姿勢で景色を見れば洞窟の入り口付近は岩場のような感じだが、少し離れると木々がい茂る森であった。


「まずは私達が今の拠点にしている街に行きましょう」


 ルイルイさんの言葉に従い森の小道を行く。よく見ると生えている木々は日本で見るものとは違う、葉っぱの形も枝の先に付いた実の形も初めて見る。聞くところによれば街までは二時間くらいの道のりらしい、天気も良いし時折吹き抜ける風も心地よい。これが異世界か…、初めて海外旅行に行くとこんな感じなのかなと考えながら森を進んだ。


「………ッ」


 ぴたり。メイメイさんが歩みを止めた。僕はどうしたんだろうと思い声をかけようとする。


「あの…ッ!?」


 きゅっ。


「あひゃ…」


 妙な声が口から洩れた、右手が不意に握られたのだ。凄くなめらかな、それでいてしなやかな指先…。


「しぃ〜〜っ……」


 僕の間近に口元に立てた人差し指を当てたルイルイさんの顔がある。


 どきり…。


 強く胸が鳴った、ルイルイさんに聞こえてしまうんじゃないかと思えるくらいに…。アイアイやメイメイさんも魅力的だが、一番色っぽいルイルイさんに間近に寄られ僕は息を飲み黙る事しかできない。とりあえず分かったという意志を伝えるためにコクコクと頷いた。


「ん…」


 ルイルイさんがゆっくりと僕から離れる。少し名残惜しさを感じでいると


「…ゴブリン、ね」


 メイメイさんが小声で伝えてくる。いつの間にか三姉妹は、そして僕もそれに倣(なら)い姿勢を低くした。


「…数は十匹、上位種はいない。固まっている、距離140フィート(42メートル余り)」


 ほとんど声を出さずに魔法を唱えたルイルイさんが小声で伝えてくれた情報を全員で共有する。


「上位種がいないなら…」


「そうね、今叩くべきね」


 アイアイとメイメイさんが討伐すべきと頷く。


「賛成よ、私も。大きな群れになる前に…、上位種が出てくる前に…討伐すべきね」


 ルイルイさんが話をまとめた。


「デンジさん、聞いての通りよ。おそらく15分とはかからない、でも念のため…。そこの開けた場所なら建物は出して中にこもっていて…。それならあなたに誰も手は出せない」


 僕は黙って頷いた。残念ながら僕に戦う技術はない。それにモンスターをこの手で殺す覚悟というか気持ちの強さもない。


「ゴブリンの他にモンスターの気配は感じられない、デンジは心配しないでここにいて」


「ええ、私が魔法でゴブリン達を眠らせてから仕掛けるわ。戦いらしい戦いにはならない筈だし、討ちもらしたゴブリンがこちらに流れてくるような事もないわ。だから、安心してここにいて」


 なるほど、魔法で眠らせて後はサクッと…。それならあんまり心配いらないのかな?僕は彼女達の意見に従い小道の横、たまたま木が生えていない非常駐車帯のようなスペースがあったので物音を立ててゴブリン達に気付かれたくはなかったので店舗兼住宅をそっと出現させた。


 それを見届けてルイルイさん達は音も無く森に入っていった。僕は店舗スペースで三人の帰りを待った。ふと電力残量を見るとわずかずつだが回復している。多分地球の何倍も発電効率が良い、魔石による蓄電池の残量が回復した事を考えてみる。僕なりの考察だが魔力というのは地球ではエネルギーのようなものなのかも知れない。


 そう考えれば魔力を消費して魔法攻撃…例えば爆発炎上するような攻撃魔法があるとしたら…、地球なら石油とかガスを使って敵を火攻めにしたと置き換えたらどうだろう。魔力は万能のエネルギー、石油や石炭の役割をこなせる…そう考えるとなんだか納得がいくような気がする。


「とりあえず飲み物の用意でもして待つか…」


 僕は電気式のポットでお湯を沸かしておこうかとした時の事だった。


 ガサガサッ!!


 突然、店の入り口から近くの茂みの向こうが騒がしくなった。


「フシィィィッ!」

「クアアァァッ!」


 獣が上げるような声まで聞こえてくる。な、なんだ、何かいるのか?


 ど、どうしよう…。店の中で大人しくしてるか、様子を見に行くか…。それが問題だ。


……………。


………。


…。


 抜き足、差し足、忍び足…。


 僕はそろりそろりと物音と獣の鳴き声がした方を覗きに行った。怖いという気持ち…、それより好奇心が勝ってしまったのだ。


 …危ないと感じたら店内に逃げれば良い。


 そんな思いもあった。僕は物音と鳴き声がした方に近づき茂みの向こうを覗いてみた。








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