第9話 回復魔法ってあるの?
結論から言おう。
僕と加代田商店の建物はリンクしている事が分かった。それと言うのも異世界に転移したのはパソコンの画面に映った回転する魔法陣を見て、さらにはその画面から発生していた電磁波が僕の体を電気信号として通じ部屋の床にこれまた魔法陣を生み出した。
その魔法陣の効果を受けたものは異世界に送られる。その結果がコレ、僕と加代田商店(建物プラス付随する設備)がこの異世界にやってきたという訳。
この事自体の詳細は分からないけど今現在分かっているのはここまで…。どうしてそれが分かったかと言うと…。
「デンジはこれからどうするの?」
地上に戻る三姉妹を商店の外で見送ろうとした時のアイアイの発した何気ない一言がきっかけだった。
「あ、うん。…どうするか…」
「デンジはその商店があるからしばらく暮らせそうだけど、食べ物とか補給できないといつまでもここにはいられないよね」
「そうだよね…。お店を持って歩けたらな…」
そう呟いた時だった。今までそこにあっ加代田商店の店舗兼住居がフッと消えてしまったのである。
「うわわわわっ!?」
「お、お店が…」
「な、なくなったら困るよ!!で、出てこい!」
そう言うと店舗はすぐに現れる。
「も、もしかして僕の意志で店を出したり消したりできるのか?」
僕は現れた加代田商店の姿を見ながら呟いていた。
□
店舗の出し入れが僕の意志で自由に出来る事が分かった。しかし、店舗兼住宅より狭い所では出せない…、セーフティゾーン各所で試してみたのだが壁に向かった状態では出せない、頭上に余裕がない場所も無理。少なくとも店舗兼住宅よりは大きい空間を必要とするようだ。
加代田商店は二階建てだ。もしこの洞窟が高さのない空間だったらこの洞窟のどこにも建物を出せなかったろう。
店はもともと僕のひいじいちゃんに先立たれたひいばあちゃんが暇を持て余さないようにと始めた小窓があるだけのタバコの販売スペースである。それが近隣の人の要望でタバコだけでなく塩とか味噌とか求められるものを扱い始め小さなよろず屋となった…、それが加代田商店のルーツである。
スペースさえあればどこでも店舗を出せる事が分かり僕はルイルイさん達三人についていく事にした。地上に出なければいずれ食料も電気も尽きてしまうからである。
セーフティゾーンを後にする前にやった事がある。それは仲間割れをしていた男達の所持品の回収である。
ダンジョンで生命活動を終えた者はそのままにしておくとダンジョンに吸収されてしまうらしい。もっとも仲間とかが
ちなみに仲間割れをした奴らは即死した一人を除いて三人が苦しみながらも生きていた。しかし回復の手段が無くしばらくすると全員息耐えた。
「回復魔法はないの?」
僕はアイアイに聞いてみたのだが彼女は首を横に振った。
詳しく聞いてみると、たしかにこの世界には回復魔法というものがあるらしい。しかしながらそれは一般的に言ういわゆる僧侶と言われるような聖職者達が得意とするところ。魔力のない僕は言うに及ばず、アイアイ達三姉妹も回復魔法を使えない。ゆえに男達に助かる道はなかった、現実とはシビアである。
回復魔法は珍しい、聖職者でなければ使えないのが前提みたいだけど…そんなレアな技能なの?ゲームとかでは必須の能力なのに…、なんて思いはしたけど僕は現代日本に置き換えて考えてみる事にした。
日本のお寺のお坊さんでも神社の神主さんでも…あるいは神父さんでも牧師さんでも良い、その人達なら回復魔法が使えると仮定して…そのような職に就いている人がいったいどれだけの割合でいる?
少なくとも加代田商店のある集落ではお寺は一軒あるのみ、神社はあるが神主さんのいない無人のお
「そうだよねえ…、そんなおいそれと回復魔法の使い手がいる訳ないか」
「でしょ?知り合いにでもそんな人がいたら超ラッキーなんだから」
男達の荷物を回収しながらアイアイが応じた、けれど死体からの泥棒と言う事なかれ。
「こういう死体はダンジョンに吸収されるんだけど、たまにゾンビ化やスケルトン化してアンデットモンスターになったりする時もあるの。そんなモンスターが武器とか持ってたら厄介でしょ?」
後日、他の誰かがそういうのと遭遇するかもしれない。そうなったら本来出さなくても良い犠牲者や負傷者が出るかも知れない。
「それにさ…」
「ん?」
「仮に私が回復魔法を使えたとしてもアイツらにはかけないよ。仲間でもないし、私達に何をしようとしたか考えたら助ける理由なんか無いよ」
「そりゃそうだ」
所持品の回収といってもヤツらも大した荷物はない。ものの数分でそれも終わった。
「じゃあ、行こうかしらね。私達がいるから道中も問題ないと思うし」
ルイルイさんが新たに魔法を唱え明かりを増やした。異世界…、どんな所だろう?今は洞窟のようなダンジョン、外に出たらどんな世界を目にする事になるのか…そんな期待と日本に戻れるのかという不安。相反する二つのものを抱えて僕は地上への道のりを歩き始めた。
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