【20227】経験値転生~出会いと別れを経てキミは強くなる~

タカナシ

第1話「転転転生」

「危ないっ!!」


 オレはトラックの前に飛び出した子供を突き飛ばす。

 その瞬間、全てが真っ黒になった。


           

「こ、ここは……?」


 オレは死んだのか?

 全く見知らぬ空間がオレを出迎える。

 せめて天井でも見えれば病院かなと思えたが、それすらない不思議な空間だ。

 すると、不意に声が響き渡る。


『子供を助け死ぬとは、なんと自己犠牲精神に溢れた者よ。そなたのようなものを待っていた。そなたはこれから、今までとは違う世界へ行き、そこで勇者の手助けとなり、魔王討伐に協力してもらう』


「へっ? いきなり何を言っているんだ? ようするに異世界転生ってやつだよね。それ拒否権は?」


『神の言葉に拒否権など存在せぬ』


                ※


 オレは次に目を覚ますと、草原の中一人佇んでいた。

 状況確認しようと周囲を見回す。


 やけに視線が低いな。でも寝ているという感じでもない。

 なるほど。きっと、モンスターに転生したパターンだな。よくある。よくある。

 ついでに手足も動かないというか、ないことから自身がスライムみたいなモンスターになっているのではないかと想像できた。


 動けないんじゃ手助けも何もないなと思っていたら、移動は人間だった頃と同じ意識で動けた。自分としては足を動かしているつもりなのだが、実際にはぴょんぴょんと跳ねている。不思議な感覚だ。


 さて、あとは、こういうときのド定番。ステータスだ。

 もはや、ド定番過ぎて神様も略しているんだろう。


「ステータスオープン!」


 案の定、半透明の画面が現れると、そこにオレのステータスが表示される。


 種族:スライム レベル:1 HP:3 MP:0

 その他にも『ちから』とか『すばやさ』とかあったが、軒並み低い数値だった。


「こ、これは一刻も早く、勇者と合流しなければ、死ぬっ!」



 ガサガサッ!!


 ッ!?


 何かが草むらをかき分ける音。

 オレは他のモンスターかと警戒していると、そこには、青い鎧を着た少女の姿が。

 さらに凝視すると不思議なことにその少女の頭上に『勇者:Lv5』の文字が表示される。


 おおっ!! この子が勇者かっ! 勇者っていうから勝手に男を想像していたけど、まさかの女の子! しかも、可愛いっ!! これは恋愛ルートもありなパターンじゃないかっ!!


 オレは早速勇者の前に躍り出る。


「勇者さ~ん。オレは悪いスライムじゃないで――」


 ザンッ!!


 オレはセリフを全て言う前に、女勇者によって真っ二つに分けられた。

 これが、オレと勇者の出会いと別れだった……。



「はっ!? ここは?」


 死んだはずのオレだったが、少しすると再び目を開いた。

 きょろきょろと周囲を見回すと、その場を立ち去る勇者の姿。

 頭上の表記は『勇者:Lv6』になっていた。


「どういうことか分からないけど、とりあえず、あの勇者と合流しなくちゃ」


 たぶん、さっきのは夢か、もしくは声を聞く前だから、モンスターだと思われたのだろう。幸い生きていたし、痛みもない。もう一度チャレンジだ!

 勇者の近くまで行くと、先に声を掛ける。


「勇者さん。オレは特別なスライム! 一緒に――」


 ボッ!!


 火球が体を焼ききった。


「なんでやねんっ! めっちゃ喋ってたじゃん。喋り途中に攻撃は反則でしょ!」


 目を開け、開口一番に叫んだ。


「にしても、さっきから確実に死んでると思うんだけど、なんで生きてるんだ?」


 ステータスをじっくりみれば分かるかな?


 ステータスを開くと、

 種族:スライム+ レベル:5 HP:15 MP:3


 あれ? 種族のところに+がついているし、レベルも上がっている。

 いったいどういうことだ?

 さらに見ていくと、備考欄があり、そこに神からであろうものからのメッセージがあった。

『そなたに能力をつけておいた。それは死んだら転生するというもの。その能力を使い、勇者を助けるのだ。ケイケンチよ!!』


 いや、誰だよ。ケイケンチって!

 

「……ケイケンチって経験値かっ!! おぉい!! これ、勇者に殺されて経験値になれってことか!! やり方がエグ過ぎるっ!!」


 その叫びがいけなかった。

 不意に影が落ち、振り向くと勇者が剣を構えており、そのまま貫かれた。

 3度目の出会いと別れだった。


                ※


 その後、オレはヒールスライムになり、今度こそという思いを胸に、


「オレはヒールスライム。人間になりたいんだ」


 良しっ! 最後まで言えた!!

 これで、仲間になれるはずっ!!


「人間に擬態するつもりかっ!? させんっ!!」


 初めて聞いた勇者の声はソプラノの美しい声だった……。


 さらに、オレはレアスライムになると、勇者の方から声を掛けてきた。


「やっと見つけたっ!!」


 嬉しそうな声に、ようやく仲間になれると思って勇者に向かっていくと。


 メタル斬り!!


 特殊な剣技を叩きこまれた。

 斬るというより内部から破壊されるような一撃。

 オレはまたしても経験値となり、勇者と別れた。


               ※


 さらに、その後。

 

「もう、嫌だ! もう勇者には関わらないっ!!」


 レアスライムになってからというもの、めちゃくちゃ狙われた。

 親の仇かってくらい狙われた。

 その殺意をさっさと魔王に向けてくれよ!

 とうとう、さっき『勇者:Lv100』になってたよ。カンストしなくても魔王くらい倒せるでしょ!


「まぁ、でも、あの勇者ちゃん。人間に対してはマジ天使なんだよね」


 モンスターには悪魔だが。

 どんな人間も見捨てないし、寒村に襲い来るモンスターの群れを寝ずに倒し切ったときは感動した。

 本当なら小さな寒村より勇者の命の方が大事だろうに。

 まぁ、オレも影ながらモンスター倒しまくったけどさ。それなのに最後に斬られるの納得いかんが。


 他にも、仲間との出会いや別れも経験し、いまや立派な勇者だ。

 最初の頃が懐かしい……、いや、最初から普通にモンスター殲滅してくる立派な勇者だったな。懐かしむ要素ゼロだった。

 でも、向こうからしたら、一瞬の出会いでも、オレとしてはかなり長い付き合いになった。もはや娘の成長を見守るお父さんの気分だ。


 そんな勇者がついに魔王との戦いに。

 オレはもう勇者には関わりたくないけれど、それでもやはり、最後がどうなるのか気になり、草場の影から見つめることとした。


 流石に魔王。

 カンスト勇者に対しても優勢だ。

 カンストしなくても魔王くらい倒せるだろなんて思ってごめんっ!


 力の差は互角くらいだが、魔王に到着するまでの疲労などもあり、徐々に勇者が押されていく。

 

 これは、本当にわずかな何かがあっただけで勝敗がつくだろう。

 オレくらい死線を乗り越えてくると、そう言ったのは容易に分かるようになる。


「……う~~~~、仕方ねぇなぁっ!!」


 とりゃっ!!


 オレは魔王に体当たりし、注意をそらす。

 魔王はすぐさま、オレに対し火球を放つ。たぶん、最上級の火球だ。

 

「あ~、そう言えば、勇者以外に殺されるのは初めてだな。ま、もう経験値になる必要もないし」


 そう、これだけの隙を作れば、勝敗は決するだろう。

 最後にオレが見たのは、魔王を切り裂く勇者の姿だった。


「最後まで世話のやける勇者だったな。魔王を倒したんだ。幸せになれよ――」


               ※


『よくぞ、魔王を倒してくれた。そなたの働き、実に見事であった。まさか、666回も転生を繰り返すとは。神ですら驚愕に値する。そこで、褒美として今度は人間にしてやろう。さらに『ちから』『すばやさ』『みのまもり』をカンストにしてやろう』


 こうしてオレは人間として転生した。

 赤ん坊からのスタートだったが、月日はあっという間に流れ、周囲の期待を背負いオレは戦士となった。

 最初の戦闘で、草原に出ると、オレは一匹のスライムに出会った。


「…………。殺せる訳がないだろっ!!」

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