第48話 コミケ二日目③ ……広っ……

昨日も行ったから、コミケ会場へのルートは覚えている。でも僕は先頭を歩かず桜お姉ちゃんの後ろを大人しく歩いていた。だってあんな怖いことを言われたら、そりゃ大人しくなるよ……。


時間は数分前に遡る。コミケ会場に向かって歩いていると、桜お姉ちゃんは僕に向かってこう言った。


「言い忘れてたけど、大人しくコスプレしてないと、社長と一緒にこの事務所を立ち上げた人が水着の雑誌のモデルをさせる、って言ってたって社長が言ってたよ?」


言ってたって言ってた?よく理解ができない……って社長と一緒にこの事務所を立ち上げた人って……父さんじゃない?……父さん……許さない……何で息子の僕に水着を……。でも、ひとまずは水着を着ることにならないように、大人しくしてよう……。


そんなこんなで僕は桜お姉ちゃんに逆らってはいけない……。だってだって……水着なんて着たら男を卒業になってしまう……。たとえ体が男だとしても……僕の心がぁ……(つд⊂)エーン


頭の中でさっき会ったことを思い出しているといつの間にか昨日見た景色が目の前に広がっていた。


「広ーい!!」

「ねぇねぇ、流君昨日ここに来たんだよね?ここ来た時驚いたよね!」

「う、うん……僕も来たときは驚いたよ……?」


世奈お姉ちゃんの勢いに若干引きながらも質問に答える。そのまま後ろで世奈お姉ちゃんと話していると、桜お姉ちゃんが振り返った。


「……(^^♪」

「ヒエッ……(⊙_⊙;)」


怖い……桜お姉ちゃんには逆らっちゃだめだ……逆らっちゃだめだ……逆らっちゃだめだ……逆らっちゃ……



「……うくん?……流君?」

「( ゚д゚)ハッ!ご、ごめんなさい!なに?」

「真っ青な顔でぶつぶつ呟いてたから心配になって……その間にもうエリアに着いたよ?」

「えっ?もう?僕たちが入った入り口からは一番離れてると思ったんだけど……」

「それぐらい長い時間呟いてたからねぇ……。ねぇ、思ったんだけど何をぶつぶつ言ってたの?」

「あ、あはは……」

「「……??」」


思ったより深い思考の中に入っていたのか。僕は。二人に言われて僕はここに来た本来の目的を思い出した。コスプレイヤーの人たちを眺めるために来たんだ(多分……)

それよりも、すごいな~。僕と似ている終音ミコの衣装を着たコスプレイヤーや、桜お姉ちゃんと世奈お姉ちゃんと同じ、扉音レオとNAITOとかのコスプレをした人もいる……。何故か、僕たちの方をガン見しているけど……。僕は、今思ったことを二人に言おうと思った瞬間、周りにいたカメラを持っている人たちが僕たちの方に走ってきた。


「「……⁉⁉」」

「どうしたんですか?」


さすがだ。桜お姉ちゃんは平然とした顔で一番近くにいる人に話しかけた。すると、その人はこう言った。


「こ、こんな……こんな可愛いコスプレをした人たちを見たことがないんです!!写真を撮らせてもらっていいですか!?と、特にそこの終音ミコの衣装を着ているコスプレイヤーさん……(か、可愛い……ぐへっへっへ……)」

「流君と世奈ちゃん、いい?私はいいんだけれど……」

「もちろん!そう言ってもらえて嬉しいよ!」

「あっ、僕も大丈夫だよ!」

「よかったです……じゃあ、早速……(あの女の子、僕っ娘なんだ……可愛い……でも、何で女装をしてるんだろう……まぁいっか……可愛いし……ぐへへ……)」


カメラを持った人がそう言った途端、周りにいた人たちがばっと動いてカメラを僕たちに向ける。僕達は周りの人たちも同じ目的だと知らず、驚く。早速、写真撮影会みたいな事が始まった。僕達、vtuberなのに大丈夫なのかな……。


そんなこんなで撮影会が無事に終わると同時に、コミケが終了した。知らず知らずのうちに、何時間もたっていたらしい。カメラを持った人たちもとても喜んでいた。でも、桜お姉ちゃんも世奈お姉ちゃんも何か物足りない顔をしている。聞いてみるとこう言った。


「「流君をコスプレ大会に出場させたかったのに……」」

「いやいや、僕は出場したくないから……」


よかった……カメラの人達(?)に心の中で感謝をしていると、桜お姉ちゃんと世奈お姉ちゃんは声をそろえてこう言った。


「「まぁ、可愛い流君を見れたからいいけど……」」

「だから、二人とも声をそろえて言わないでよ……」

「「そろえてない!……あっ……」」


そんな呑気な僕達は、誰かが僕達の後を付いてきていたことなど知らない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る