カウンセリングルームとは………?

生きる希望が無くなっちまった。何でよりによって湊介の奴が……こんなにどっと疲れてしまったのは何年ぶりだろう。


…今日まで頑張ってきたんだし、もういいよな


自然と口に出てしまった言葉に少し困惑しながらもオレは屋上へ進んでいっていた。まさか本当にそんな事を実行する時が来るとは笑っちまうよ…でももうそんな事気にしない、オレはもうずっと頑張ってきたしもがいてきた。それなのに、それなのに…………


 


屋上に向かう途中の階段でまだ幼稚園児くらいの小さな女の子が居た。すごく元気な子らしく階段をのぼったり降りたりしている。オレはその女の子にぶつからないように少し隅によってのぼった。ここまでは普通だった。

なんとその女の子が壁によじ登り始めた…!今日はなかなかの強風なのでこんな小柄な身体だったら吹き飛ばされてしまう…!!!咄嗟に身体を翻してオレも壁にのぼった。

「危ないっっっ!!!!!!!!!!!」

女の子を内側に軽く突き飛ばすと同時に、オレの身体はふわりと宙を舞いそのまま急降下した……

嗚呼……これが『死』かぁ……ようやく、ようやく…………

脳天をかち割られるような感覚に包まれオレは完全にその生に幕を閉じた

















はず、だった――――


***


…あれ?オレ生きてる?? いや、あそこは11階…あんなところから落ちたら普通は死んでしまうだろ……でもやたらと静かな場所だなぁ。辺りに霧っぽいのが立ってるし。



「おぉ!ウェルカムウェルカム〜!!♡」


その辺にギャルでも居るのかよここ。やたらと黄色い声の女声が聞こえるんだが。

うん、やっぱあの世だな。結構若い女の声だったから若いうちに亡くなってしまったのか……


「早く起きろっつってんだろバカ佐!!!!」


今度は針のように突き刺してくるような女の声が耳に響く。バカ佐って職場で散々言われた悪口で傷つくからやめてくれよなぁ………


「まぁまぁ、司佐君もつらかったんだし、そこまでにしてやりなって」


今度はやたらと紳士的な男の声。優しい言葉遣いで落ち着く声だ……あああ耳が溶ける……落ち着くわ。

「司佐君、ごめんね。僕達は司佐君の顔見たいからそろそろ起きてくれないかな?」

本音はまだ寝てたい所なんだが…こんなASMRボイスに言われたら起きるしかねぇな。

身体をゆっくりと起こし三つの声がする方向を向く。

個性的な見た目の三人がそこに立っていた。

「初めましてっ☆ あたしはミルディアだよ!ミルって呼んで〜! つー君、よろしくねぇー!」

先程のギャル声は見た目にも反映しており、ミルという奴は全体的にフリフリ衣装の明るい感じだった。可愛いっちゃ可愛い。

「……私はギルドア。呼び方は何でもいい」

「ちょっとルドちゃん!テンション低いよ〜!ほらほら、ニコニコ笑顔!キラキラ太陽!!」

「ミル!!!アンタ少しは黙りなさい!!」

針みたいな声の女はミルとは違い引き締まった黒ベースの格好で遠目から見たら男に見えてしまいそうな雰囲気である。カッコ可愛いみたいな感じだな。

「二人がすまないね。僕はカーティルズ。ティルと呼んで。これからよろしくね、司佐君」

「わかった…ところでお前らの目的は何なんだ?」

まず気になったのはそこだ。あの世っぽい場所によく分からない男女三人がオレの前に居るんだ。

目的を聞かなければ何も始まらない。

するとティルが近づいて話し出す。

「僕達はね、キミのカウンセラーなんだよ」

「か、カウンセラー…」

コイツらはオレの心の中読んでるのか?

「てかここはあの世か?」

「異世界と現実の狭間だよ」

うん、すまんな、よくわからん。てか本当にそうならずっと憧れてた異世界に行けたって訳じゃね?素直に喜べないのがおかしいんだが。

「あたし達はつー君のメンタルを整えてあげるの!悩み事とかやな事があったら、何でも言ってね!」

ミルのテンションよ…子供の頃の湊介によく似てる気がするな。ミルを見ているとルドとティルがやけに落ち着いてるように見える。

「ミルは常にこんな感じだから騒がしかったらちょっと注意するから安心して。そして………ルド、ちゃんと司佐君に挨拶した?」

「……………もうしたし、別にいいでしょ」

「で、でも…ちゃんとよろしくって言わないと」

ルドはしばらくムスッとしながらオレを睨みつけていた。おいおい、初対面だろオレ何もしてないぞ。それでもルドの奴は睨みつけるのをやめずにしばらくして向こうに行ってしまった。

「ルド、何なんだ……?」

「つー君ごめんね。ルドちゃん、つー君に軽いトラウマがあるみたいで…あたし達も何とかさせてるんだけど………」


ルドにとって、オレがトラウマの元…?いやいや初対面だし何もしてないし…もしかしたら前世で何かあったりして…ま、深く考えなくてもいいよな…?

「司佐君、とりあえずここを案内するよ。初めてだし迷うかもしれないからね」

「あ、あぁ…」

紳士的なティルは他人に笑顔の時の湊介の紳士スマイルそっくり。てかここにいる奴ら何もかも湊介に似てる気がする……

でも、もう湊介の事は思い出したくない…………あんな何もオレに言わずに散ってしまったアイツなんか…思い出すだけで苦しい。

とりあえずまずは案内してくれるティルに着いてこよう。




「…………何も無いな」

「そうなんだよねぇ…」

「まぁここは狭間だからしょうがないさ…」

このカウンセリングルームこと狭間はビックリする程何も無かった。小さめの小屋と謎のドアがあるだけでそれ以外は雲の上みたいな感じである。「こんなちっこい所にお前達は住んでるのか?」

「…住んでるって言うか、留まってるって感じかなっ。今あたし達が住んでた異世界がぶち壊されてるの。そうだったよね?ティっ君」

「そうさ。僕達が住んでた異世界は鬱麼という怪物によって大半の場所が壊されてる状態なんだ。僕達はその理由を知ってるんだけど…まだ言えないね」

そんなにひた隠しにするほどとんでもない状態なんだな…寒気がしてくる。

「そのせいで、ルドは大きく変わってしまったんだ。前も少し過度な馴れ合いを嫌っていたけど笑ったりできる純粋な少女だったんだよ」


ルドにそんな一面があっただなんてな…オレは初対面で圧倒されちまったから元からあんなツンケンとした性格かと思ってた。

「またあたしがルドちゃんを連れて帰るから心配しないで!ささ、元の場所に戻ろっ!」

「あ、ああ…」

「司佐君、心配しないでね。とりあえずまずはカウンセリングをしていこう」

少し心に引っかかる物を感じながらティルとミルに着いて行った。


***


「本題に入るよ。司佐君は今どうしたい?」

「死にたい」

本当の事を少し強めの声で答えたのでティルを圧倒(?)させてしまった…

「そ、そっか…司佐君の今の気持ちは死んでしまいたい、消えてなくなりたいんだね」

「当たり前だよ。自分の思い込みかもしれないけどオレは神なんかに愛されなくて作られたんだなって身に染みてわかる人生だった。ようやく死ねるかと思っていざ来たらまだ死んでないんだよ。笑えないよな」

思ってることをこんなにもぶちまけられる相手、湊介以来だと思う。ティル達が湊介の生まれ変わりのように…少しの安心ができる。一言で表すと…聖母と聖父だな。

「………その気持ちが世界を私達の世界をぶち壊した訳でしょ!?!?!?」

耳をつんざく声が聞こえたと思ったらルドが居た。怒りと悲しみに染まった顔でオレに近づく。

距離感バグりすぎ…いやそんなこと思ってる暇は無い。ルドの奴は必死であるからな。

「わわっ!?ルドちゃん落ち着いてって!」

「ミルは黙っててよ…司佐、ミルとティルが話を聞くってのはアンタを救うわけじゃなくて私達の世界を救うためなの。それを浮かれて助けて貰ってるって言う緩い考え今すぐやめやがれ!!」

「ルド、落ち着きなさい!司佐君に言い過ぎだって…!!」

今のルドの言葉はボールが腹にぶち当たったかの様な衝撃が走るほどの威力。確かに浮かれていたオレの気持ちを現実?へと引きずり戻してきた。ヒスを起こした母の事を思い出して一瞬吐き気がする………ルドは何故こんなに冷たいのか…?

「司佐!!!!私の父さんを返せよ…アンタのせいで…返しやがれ!!!」

「………ごめん」

「__っ!!なら、真相を見せてやるよ…」

「ルドちゃんダメ!今のつー君に真相を見せたら!!!」

「ルド!いい加減にしなさい!!!!!!」

ティルとミルの声も聞こえずオレの脳内にとある景色が映し出される。

地震でも起きたかのような崩れた建物に謎の魑魅魍魎が見え、ありとあらゆる建物を壊している…その化け物はとある男を掴んで……潰した。


赤い鮮血が飛び散る。泣き叫ぶ女の子の声が聞こえる。





何も言えなかった。


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死にたい俺が現実と異世界の狭間のカウンセリングルームへ行っちまったんだが ぐりず @gurguri

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