死にたい俺が現実と異世界の狭間のカウンセリングルームへ行っちまったんだが

ぐりず

世の中やな事ばかり

この世はつまらなくてモヤモヤが溜まるだけの空間と思ってしまってるオレがいる。中二の頃から思って今でもズルズルと気持ちを引きづっている。もしかしたら周りが普通なだけでオレがそんな思いを抱いてるだけかもしれないが。


「なぁ、異世界転生モン読んだことあるか?」

「い、異世界?」

中学三年になり親友の湊介から教えてもらった転生モノ。何かとあって死んだ主人公が異世界で生まれ変わったりしてその世界でひたすら無双したり、可憐美女に囲まれてエブリデイハッピーなハーレム生活を送る。または読んでた漫画や小説のキャラに憑依して二次元のキャラと交際したり、イヤなキャラにスカッと制裁をしたり……まぁそんなテンプレなイメージしか湧いてこずに食わず嫌いしてた。

なのに湊介からオススメしてもらったラノベを読んでもうどハマり。勝手な偏見しか持ってなかったその時の自分を殴りたい程。


でもそんなハマった異世界転生モノも、手をつけなくなっていった。

親父が色々とやらかしてしまって離婚。お袋は離婚後にしばらくしてストレスや過労が溜まって意識不明。これは悲劇と言ってもいいのか?いや自分で言うのは何か…アレだな。でもなぁ、まぁまぁツラいぞソレは……

オレ可哀想なんでしゅ〜なんか自分で言ってたらオレ自身でも流石に気持ち悪く感じるからなるべく思わないように心がけてるぞ。


だがな、やっぱりたまにメンタル崩壊しかけることもあるぞ。新しく入った会社ではクソ上司がオレを気に入らないのかやたらといびってくるし脂汗ニキビな気持ち悪い同期はやたらオレに近づいてきたりセクハラまがいの事をする。本当にゾッとするわ…

だけどこれでめげてしまったら自分で少し情けなく感じてしまうから何とか頑張れてる…のか…?とりあえず今日頑張ったら三連休で思いっきり羽伸ばせるから別にいいが。久しぶりに湊介と会ってオタ話をしたい…はぁ、心の時間がスローペースに進んでるように感じる…


「浅間土!!何だこのゴミのような資料は!」

「〜っ!はーいすみません!!!!!」

叫びすぎたら喉にヒビ入りますよ、上司。


***


「おう!司佐〜! 久しぶりだなぁ!」

「湊介、学生の頃から相変わらず声デカだな…」

最近都合が悪く中々会えなかったので湊介とは約一年ぶりの再会。声デカ陽キャの湊介は決して不快になるような声ではなく聞いてて明るく前向きな気持ちになれるような感じの奴だ。オレはいったい何年、湊介に救われてきただろうか…最近は湊介の励ましもあまり効かなくなった気がするが、久しぶりに会ったからだろう。今日は思う存分楽しもう。

「司佐、最近仕事はどうだ?」

一番されたくない質問されてしまったわ。湊介はかなりショックを受けやすいタイプで一度ガーンとしたら世話が大変になるからテキトーに流しておいた。たまーにトラブルとかもあるけどそれ以外は至って普通の仕事だよ、と。

「本当にそうか…? キツかったりしたらいつでも俺に言ってくれよな。悩み聞くよ」

オレは本当に良い親友を持ったもんだ、生きてる中で神がくれた特別な報酬は太陽の湊介しかいないかも…だが度々話題を変えてくるのが追いつけなくて玉にキズ。

実際先程立ち寄った喫茶店でも「お! 俺と同じ会社のマドンナさん! 可愛い〜」とかSNSの話をしてたのにも関わらずにとんでもないスピードで話題を変えてきやがって笑うしかないぞ。

んで、ようやくオレが湊介と行きたかった書店に来た。少し見ない間に新しい異世界モノが販売されてるのかもしれない、新作でもベストセラーでも何でもウェルカムだからな!


この本屋に入るのは久しぶりだ。学生の頃はアホみたいに通っていたけどもう二年くらい入ってないかな…

ラノベコーナーはこの世の天国と言っても過言ではない。本当久しぶりすぎてこの場で脳汁出しそうだが流石にここでの発狂はOUTなのでまぁ。

「おぉい司佐ぁぁ!!!」

ここを公共の場とは知らないのかコイツは。

「湊介うるさいぞ、ここでは静かに」

「図書館じゃないんだから!あとこれ見ろよ!」

「だから静かにしやがれ………あっ」

湊介の手の中にあった本を見て思考が止まった。オレの唯一の癒しだったタイトルのラノベがある。まだこのシリーズが続いていたことが嬉しくてたまらない。まるで「おかえり」と言われているような…そんな嬉しさ。

やべ、ジーンと来てしまう……

「司佐!? こんなところで何泣いてんだ!?司佐ぁ!」

……うーん湊介め。嬉しみの余韻に浸かっていた所を邪魔するんじゃないぞ。またオレにも湊介に続いた居場所が出来たと感動してたんだぞ


てかこれだけでオレの居場所って言えるってオレは一体どうしたんだよ…


「司佐、めっちゃ泣きそうになってたけど…やっぱり俺に会ってない間に何かあったんじゃないか?」

「は? 大丈夫だが」

「お前溜め込むクセがあるから絶対大丈夫ってのは嘘だよ。俺と何年親友続けたつもりだよ」

そりゃあもう長い間よ。てか自覚してなくてオレはそんなクセがあったのか…確かに周りに心配かけたくないという理由で話したくない事もある。

でも、でもオレは…言ったら拒否されるだろうな


しばらくの間に気まずすぎな沈黙が周りを取り囲む。湊介は何か考えているような感じでむやみに話しかけられそうにも無いしそもそも話題が見つからない時点で重空気はまた襲ってくる。

身体はまるで鉛のようにずっしりとして、思うように動きやしない………

少ししてようやく湊介が話をふってくれた。

「先月新しく出来たレストランがあるんだけどさ、今日の晩飯はそこで食わねぇか?」

そういえば近所でも話題になってたなそのレストラン。かなり量が多いらしいから胃袋マメツブなオレには汚い話全部食っても戻してしまうだろう…そんなもったいないことはしたくないね。

「オレ夜に在宅の急用が入っちまったんだ。誘ってくれたのに本当にすまない」

「マジかぁ…つかその仕事中々ハードな場所だよな…とにかく無理はすんな。また今度なー!」

オレにしては上出来な嘘かも。まぁ食欲が全くないしうっすい味の飯食っても感想言えないからこれで助かったね

さ、帰ってもう寝よう。食べる気力も風呂入る気力も無い…風呂は昨日入ったから別にいいよな、うん。でも今マンションプチ工事中だからペンキ臭いんだよな。今のうちにハンカチに香水染み込ませておこう


「へいへい兄ちゃん!ウチ寄ってかねぇか?別嬪ちゃん達がすごい揃ってんぞ〜!」

「そこのイケメンさん!いい顔してるねぇ…よかったらボク達の所でレディー達の相手しないかい?」

やられた 自業自得だけどな。

近道しようとネオン街のバス停に向かったらホスト勧誘だったり風俗集客のオッサンにべったり絡まれてしまった……無視したらすごい罵声。中学生の頃を思い出して頭が痛くなる。



『おい返事しやがれクソ陰キャ』

『空気汚ぇなと思ったらやっぱり浅間土居たわw あのぉ、早く帰ってくれませんかねぇ?』

『おま、言い過ぎだろ流石にw 正論だけどw』



頭痛マジでやばい。早く帰ろう。




ふらつきと頭痛を我慢してようやくエントランスにたどり着けたぞ。今日は普通の日じゃない…ずっと身体が震えてるし頭が痛すぎて吐き気すら覚えた。まさかこれを機にオレの人生がぐるっと回転するのか…? そんなのあるわけ無いよな…あはは…

エレベーターが点検中なので仕方なく一段がかなり急な階段を登って六階に向かわなければならない これがまためんどくさいモノである。元から運動が嫌いですぐに息切れするオレにとっては階段はかなりの地獄。

途中で変な沈んだ気持ちが襲ったりして足取りが重くなったりしたが構わず進んだ。

「ふぅっ……疲れた……」

あともう少しでオレの階…そう思った途端、高い夜景がオレの目にうつった。ネオンなどがほぼなく街灯のうっすらとした光が駐車場を照らして寂しくも落ち着くような光景を生み出していて思わず息を飲んでしまう…そして今思えばこのマンションは一階一階が結構高めだから……

「ん…ここから飛び降りたらどうなるんだろ」


何を考えてるんだオレは おまけに口にも出してしまうなんてどうした…………

…いや、もうそんな誤魔化しすらキツくなってきた。そんな時は早く部屋に戻って寝た方がいいよ、な。


***


朝だ。やたらと眩しい白い朝日がオレをさらに憂鬱な気持ちにたたき落としてくる。結局寝てもマイナスな気持ちが晴れることは無い、まだ生きているのかという気持ちが積み重なって逆に絶望が押し寄せて苦しいんだよなぁ。でもこの時間になったら湊介からのメッセが連投される時間帯だろう……アイツと話すと少しだけ気が楽になるからもうしばらく待った方がいい。布団にダンゴムシのようにくるまりながらテレビをつけた、オレは何回目のダンゴムシなんだよ。

朝のこの時間はほとんどのチャンネルが総合報道でありユニークなニュースや真面目なニュースなどちらほらチャンネルによって違うのを見比べるのが謎マイブームだ とんだ趣味してるよなぁ。

最近よく見ているチャンネルは交通事故について報道しておりキャスターの顔はものすごく暗くて神妙であった。中々近めな所であった事故なので不安になって思わず消音にする……まぁまぁ大規模なので怪我人や死亡者などの犠牲者も多く心に針が刺さってくるような痛みが走ってきた。

その中に見覚えのある漢字が目に入ってきて、一瞬で絶望の底に沈んでしまう。ニュースキャスターの悲痛な声は耳には届なくなった。



「叶多 湊介さん23歳です。まさかこんなに若い方まで犠牲になってしまうとは……本当に悲しい事故でした」







オレの生きる希望はどこに行っちまったんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る