庇う優しさの中に潜む計算高い欲望
『Wの悲劇』夏樹静子(光文社文庫)
どんな巧妙なトリックが仕掛けられているのかというのもあるでしょうが、真っ先に映画を思い浮かべた私としては、どれほど映画との違いがあるのか、という方に興味を惹かれました。
しかし、これが読み始めてみると似通った部分は残すものの全くの別物と言って良い。そのため違和感を抱きつつもむしろ新鮮な気持ちで頁をめくることが出来ました。然程、古いとも言えない本ではあるものの、ミステリー以上に難解だったのはその漢字の使い方だったでしょうか。
時々辞書を引いたりと読書が中断される場合もあって、それは事件を考えさせるためのいい時間でもあったかもしれません。
雪の降り積もる正月休みに日本有数の製薬会社である和辻薬品の所有する山中湖畔の別荘に一族が顔をそろえた。部外者は会長の与兵衛のホームドクターである間埼鐘平と与兵衛の姪にあたる女子大生の摩子の家庭教師である一条春生。
その夜に悲劇の幕が開く。こともあろうに姪の摩子が会長の与兵衛を刺し殺してしまったのだ。好色な会長に襲われそうになったということを聞かされた一同は、なんとか摩子を庇おうと外部犯による犯行を思いつき偽装をする。これで万全と思われた城壁だったが、誰もが予想もしないところから内部犯による犯行だと富士五湖警察署の中里右京に見抜かれる。
分かり易い展開でありますが、あまりに進行がスムーズなため、疑問が残るのも事実です。このまますんなり終わってミステリーと呼べるのかという疑問です。
ちなみに本書はアメリカの推理作家エラリー・クイーンの悲劇四部作へのオマージュで執筆されたとのことです。
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