僅かな時間に隠された巧妙なトリック

『点と線』松本清張(新潮文庫)


 一度とは言わず二度、三度と読まれた方も多いのではないだろうか。


 以前はミステリーと言えばこの名が浮かぶほどで代表作の一つでもある。映画化やドラマ化もされその巧妙なトリックに思わず唸った記憶も恐らくあるはず。変哲もないやり取りから徐々にその奥深いドラマが始まる。


 今ではどこか情死も懐かしい言葉に感じられたりもするだろうが、ただの心中と思わせたところに実は不可解な点が存在する。


 九州博多の海岸で発見された男女の遺体。仲睦まじそうな姿に誰もが心中と思ったが、地元のベテラン老刑事の鳥飼重太郎にはそれがなぜか不自然に映る。やがて警視庁からも三原紀一刑事が派遣されるが、謎は深まるばかりで一向に解決への糸口が見えない。


 それどころか出てくるのは心中を確たるものとする証言ばかり。特に二人が寄り添うように電車に乗り込む姿を偶然見かけた経緯は本書の醍醐味でもあろう。


 はたして真相はどこにあるのか、知らず知らずに刑事の目線になって読み進めていたりもするが、ページを捲るたびに浮かぶのは未解決という文字ばかり。このあたりは松本清張ならではと言ったところか。


 それほど厚手の本でもないとは言え、ミステリーが凝縮されているため、早い人ならば一日で読了してしまうのではないか。


 私は十年以上電車に乗ったことはないが、北へ南へ電車で旅をする方なら尚のこと引き込まれるに違いない。現代はスマホやインターネットの時代だが、手元に時刻表を置いて読めればより楽しさは倍増するはず。


 もっともこの場合、当時のいうレアな条件が付けくわえられるが。

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