『青の炎』貴志祐介（角川書店）

　とかく悩みの多い思春期である。大なり小なり生きていれば悩みの一つくらいは皆持っていて当然かもしれない。やれ成績が、やれ交友関係が、そして家に帰れば帰ったで家族とのぎくしゃくした関係。

　血気盛んな高校生ともなれば尚のこと。そんな苦悩をうまく描いている本作を読むと、年配の方などはあの頃という過ぎ去った時間を思い出すのではないだろうか。

　ロードレーサーを駆って湘南の高校に通う櫛森秀一は１７歳。そんな彼の悩みは母が10年前に結婚してすぐに離婚した曾根が家に居座るようになったことだった。秀一と妹の遥香、そして母と平和に暮らしていた生活がそれによって一転する。なんとか家族を守らねばと秀一は曾根の殺害を決意する。もちろんそれは練りに練った完全犯罪である。

　この計画から実行に至るまでが読んでいて手に汗を握る。まるで自分が主人公になったかの思いで無性に喉が渇いてくる。とにかく生々しい。そしてついにその決行の日が訪れる。成功するのかしないのか。

　あえてその先は記さずにおくが、最後の最後まで複雑に揺れ動く感情が読み手を刺激し続ける。甘いひと時もあるにはある。

　しかしながら秀一の奥底で燃え滾る炎の色までは到底変えることは出来ない。いうなればつかの間の休息程度。少年法という鎧も本作では匂わせてはいるが、結局のところ本人はもとより家族も丸裸にされることを当の秀一は理解している。

　それゆえ、終盤になればなるほどこの本は違った重みを増してくる。

　もし、秀一のような状況に置かれていたなら、アクションを起こす前に一度本作を読んで欲しい。