それぞれの人生やプライドが詰まった巨大な箱

『マスカレード・ホテル』東野圭吾(集英社文庫)


 ドアを開けた途端、いやそれ以前の段階で物怖じしてしまいそうなホテルだと読みながら思った。こんなところに泊まることは無いと思いつつも、次第にそのホテルの内部までもが鮮明に浮かび上がっていく。


 もちろん働いている人達の仕事ぶりもだ。東野圭吾の人気シリーズでも本作は映画化もされ、劇場に足を運んだ方も多いのではないだろうか。今回はその一作目にあたる。


 舞台はホテル・コルテシア東京。名前からして見上げるような高さをイメージさせる。都内で起きた連続殺人で残されていた暗号。それを解読した結果、次の犯行はここだということが判明し、ホテルの内部に捜査員を潜入させる。


 若き刑事の新田も同様で、ビシッとした髪型に整えフロントクラークの業務に就く。ただ、あくまで彼は刑事。見た目ではホテルマンだが、言葉遣いや振る舞いは刑事そのものである。その教育係を任されるのが若き女性の山岸尚美。この交わりそうで交わらない二人の関係性も本書の見せ場でもあり、つい笑ってしまうこともしばしば。


 それとさすがは巨大一流ホテルというのも見せつけられる。登場する大勢の客に強烈とも言える個性があって、誰もが怪しく見えるので読み手も知らぬ間に刑事の目線になっていることも。もちろん、ホテルマンならではの応対ぶりも一見ならぬ一読の価値は十二分にあるだろう。


 仕掛けの上手さは最早言うまでもなく、最後の最後まで良い緊張が続く。


 巨大ホテルの裏側を見つつ、事件を推理していく。そんな面白さを兼ね備えた一冊である。

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