改めて思う。人生は一度きり

『リピート』乾くるみ 文春文庫 


 突然掛かって来た見知らぬ相手からの電話は地震の予知という突拍子もない内容だった。主人公の毛利は切らずにその話に耳を傾ける。そして実際に地震が起こる。

もちろんこれは悪戯ではなく過去へ戻れることを信用させるための布石だったわけです。


 信じる。信じない。


 集められたメンバーの心情も様々で、自分だったらどちらになるかなどと、読み進めても迷い続けました。新手の詐欺かと警戒もするでしょう。しかし、この物語では一切物を売り付けたりはせず過去に戻すだけ。


 過去に戻れる。


 この短いフレーズだけでも脳裏に様々な思いが広がります。まさに文字を見ながら一方では夢を見ている。それが現実だとしたら何をするか。あるいは何をしないか。読み手が100人いれば考えも100通りあるでしょう。


 やがて実際に毛利を始めとしたメンバーは過去へと戻る。このあたり、まるで自分が体験しているかで胸が高鳴ります。それから現代で記憶した馬券を買って大儲けする。


 私もこのタイプかなと少々羨ましくもなりましたが、そんな甘い話ばかりでは読み手も離れていきます。ちゃんと苦いところも乾は用意してある。いうなれば何事にもリスクが付いて回るってことなんでしょう。


 それを踏まえて行くか行かないか。おそらく参加者同様に苦悩するのもすっかり引き込まれた証拠かもしれません。所詮は小説ならではの夢物語だと笑う人もいるでしょうが、私は予備知識として一度読んでおいても損はないと思います。


 もしかしたら数日中に地震の予知。さらには過去へ戻れるなどという電話が掛かってくるかもしれない。その時、少しでも慌てず失敗しないためにも。

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