【KAC20227】軍隊堅麵麭食べてみた!~食べ物一期一会~

狐月 耀藍

軍隊堅麵麭食べてみた!~食べ物一期一会

 人生は出会いと別れの一本道。

 いつも誰かと、何かと出会い、そして別れてゆく


 というわけで、とあるきっかけで米軍のレーションなるものを知ったわたし。

「帝国陸軍人の食す『堅パン』といふものを、きつねのわたしも食ふてみんとて、食ふなり」

 ええ、こんなノリで、福井県出身の陸軍さん(陸軍歩兵三十六連隊のかたがた)が食べていたという「軍隊かた麵麭パン」を通販にてポチったのです。

 (Twitterで晒しているわたしの醜態を読んで下さった方はご存じかもしれません。あのチャレンジです)


 一ヶ月くらいかかるときもあるよ! という文言に、「受注生産か、しかしそう売れるはずもないものだし致し方なし、待つのもまた一興」とか思っていたら一週間程度で届きました。

 「(株)ヨーロッパン キムラヤ」さま、迅速な対応ありがとうございます。ちなみにこんな感じで届きました。

 https://kakuyomu.jp/users/kitunetuki_youran/news/16816927861712200143


 ご丁寧に「そのままかじったら歯が折れるから金槌で割って食べてね♡(意訳)」という注意書きまでついている、食い物とは思えない公式の扱い。


 だが安心したまえ、わたしは岐阜県の大垣に立ち寄ったら「最堅のせんべい」と名高い「みそせんべい」を食わずにはいられないほどの硬いもの好き。

 日常生活からハリボーグミやシゲキックス、噛王など、ハード系グミをこよなく愛し、娘の残したえびフライのしっぽを美味しくいただき、イワシも頭から尻尾までガリガリとかみ砕いて何も残さぬ程度の顎ぢから。


 さっそくかじって噛み砕――けなかったよなんだよあの堅さ!

 ほんとに、前歯だけでかじっても噛み割れませんでした。

 単純に堅いだけなら問題なかったのです。堅いだけなら、「みそせんべい」だって十分に堅い。

 けれど、「バリバリ」と噛み砕けるみそせんべいとは、一線を画す頑健さをほこっていたのです、この堅麵麭。

「見せてもらおうか、旧日本軍の保存食の性能とやらを!」

 そう思っていたら、マジでカタかったです。ええ、ガンダリウム合金のカタさに狼狽したジオン兵のごとく。


 単純に堅いだけじゃなかったんですよね。みっちりと押し固めたパンをじっくり焼いたみたいな感じで、「密です!」と某都知事が出張ってきてもおかしくないありさま。曲がりなりにもパンと名乗っているせいなのか、微妙にシケた感じが、余計に「バリン!」と噛み砕けないようになっていて、ストレスフル――もとい! ゆっくり噛みしめて食べる「スローフード(意味が違う)」です。

 なにせ、店で定食を頼んでも仕事で弁当を出されても、基本的に一食分を五分以内で完食するわたしが、「食べ慣れた」あとでも一枚を食い終えるのに三~四分かかったのですから、そりゃもう(食べるスピードが)強制スローフードですよ!


 犬歯あたりでかじって、てこの原理で噛み割るようにして食べる方法を編み出してからはそれほど苦も無く食べられるようになりましたが、それでも堅い。歯が折れるようなことはありませんでしたし、金槌で割る必要もありませんでしたが、食べるだけで一苦労でした。


 なお、わたし自身はへにょへにょな食感が「大嫌い」なので普段は絶対にやらない「ひたパン」ですが、世の中の好みから逸脱している自覚のある逸般・・ピーポォなわたしがいくら食えたところで、一般人には辛かろう、何かいい方法はないかと考え、牛乳に浸して食うことを思いついたのですが……。


 30分浸しても45分浸してもまともな柔らかさにならない(牛乳が浸透しない)ってどういうことよ。待ち飽きて食っちゃったよ。

 表面がぬるぬるするだけで、中はしっかり堅かったです。あー気持ち悪かった。

 しかも微妙にシケって微妙に噛み砕きにくくなるというオマケつきでした。


 味は、素朴なビスケットといった感じの、優しい甘みでした。

 うん、味は悪くないです。堅さの問題さえクリアできれば、子供のおやつにしたい味ですね。


 これは重要です。美味しさは、人の心を癒します。最後の一枚は、なんだか惜しいような気がしてきました。食べ物ゆえに、出会いはそのまま別れのはじまりです。胃袋に収めてしまえば、それはすなわち別れを意味します。


 アメリカ軍が大量に配った悪名高きチョコ(という名の何か)バー「Dレーション」は、非常食ゆえに兵士がおやつ代わりに「パクパクですわ」をやらかさないように「ゆでたジャガイモよりマシな程度」の味にされてしまったのは、その筋では有名な話のようです。

 日本軍は、過酷な戦場で一服の癒しとなるべく、この堅麵麭を非常食としたのでしょう。どこぞの某コメ国のお偉いさんとは違いました。

 あの優しい甘さを味わうために、またあの苦行を味わわねばならないというのも、まあ、それはそれで大変なんですが。


 ですが、「食うだけで疲れる、ギリギリまで食う気になれない保存食」という食欲コントロール法を選んだのは、いかんせん配慮が足りません。

 なにせ一枚119キロカロリー。これは少ない。


 どれくらい少ないかというと、やっぱりみっちり押し固めて作ってあるせいでしょうか。一枚食うとそれなりに腹が膨れる感じがするのですが、三十分もすればもう、腹が減ってくるのです。こりゃいかんだろ。

 お別れしたその30分後にはまた出会いたくなるって、いくら何でも早すぎだ。


 食うために必死で顎を動かさなければなりませんから、半分くらいのカロリーがそれで奪われてるんじゃなかろうか。まして戦場でこの堅麵麭を破砕するための道具を探し回って砕く、その労力を考えたら、なんだか摂取カロリーの収支がトントンになってしまいそうな気がしました。保存食がそれでいいのか。


 ――しかし! いまの世の中なら、その堅さは間違いなくネタにできる! 世界に冠たる「食う気になれないほど堅い」という食欲コントロール法を編み出したのは、もっと世界にアピールすべきだと思います。


「HAHAHA! メイドインジャパンがまたクレイジーなモノを出したぜ! よーし噛み砕けるか『KATA-PAN』チャレンジだHAHAHA!」

「な、なんだってーっ!? 『歯が欠けることもあるから金槌で割って食べてくれ』だって? ナイス度胸だ、俺様の歯道に立ちふさがるとは! だったらそのまま食ってやる――Ouch!」


 こんな具合に、Twitterで盛り上がること請け合いです。うまいこと有名人がチャレンジすれば、一ヶ月はバズるんじゃないですかね。



うまいもんドットコム 軍隊堅麵麭

https://www.umai-mon.com/user/product/746?option=15

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