第2話

 少年の名はノトスと云い、“創造者”の一族の末裔であった。

 黒い髪と瞳を持ち、浅黒あさぐろい肌をした、快活とした性格で太陽のような笑顔を浮かべる少年ノトス。


 彼の血は“塔”と関わりを断つことを選んだ者たちの血である。だが、その血は紛れもない“創造者”の血なのだ。


 未熟であるが故の好奇心と、血の導きによりノトスは定命の者の世界と隔絶された“塔”へと迷い込み、偶然が彼を永遠の少女の許まで辿り着かせてしまった。


 ノトスの無邪気さと笑顔はエルにとって劇薬も同然。彼の存在の光は瞬く間に彼女の心を蝕み、虜にした。


 そしてエルは初めて知るのだ。自らの宿命の残酷さを。

 永遠であるエルに定命であるノトスは寄り添えない。その現実をエルは初めて実感した。孤独が彼女に牙を剥き爪を立てた。


 エルの淀んだ時間の中、ノトスの時間だけが過ぎてゆく。

 いずれノトスはエルを置いて去ることだろう。誰にもそれを止めることはできないのだ。ノトス自身でさえ。


 エルの健全なくして“塔”の健全もありえない。

 彼女の揺らぎは次元の揺らぎにも繋がり、すでに影響は世界に出始めていた。


 放置すれば多くの生命が危機に曝されることだろう。いずれは次元そのものが崩壊するだろう。

 エルもノトスもそんなことを望みはしていなかった。


 だからエルはこれ以上、自らの心が壊れないように、自らの意識を深く閉ざし眠りについた。定命の者が懐く永遠の願いを叶えるための、永遠の眠りに。

 傷付いた心を癒やしながら。“塔”とともに。


 だからノトスは探求たんきゅうした。定命の者の運命を覆す術を。いつか眠るエルを起こすための術を。エルが望んだ、二人で生きてゆける世界のために。

 たとえ生まれ持った血と肉を全て捨て去ることとなっても。

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