『高速餃子道路』
ぴとん
第1話
春休み、免許取り立ての藤井にドライブに誘われた。
やることもなかった俺は、二つ返事で話に乗った。
そして、藤井が借りてきたレンタカーに乗り込んで30分後。
しかし、俺は誘いに乗ったことに後悔することになる。
……………………
藤井の運転は免許取り立てと言うわりに、安定していた。車線をはみ出すこともないし、ブレーキも緩やかで車体が揺れない。
「教習所ではかなり教官に気に入られたぜ」
藤井は自慢げに言う。
「ふぅんすごいすごい……にしても今日は日差しが強くて暑いな」
俺はスマホの音楽アプリのプレイリストを操作する。
最近は車についたコードにスマホを接続すればスピーカーから音楽を流せるようになっているそうだ。
ドライブに最適な疾走感のある音楽をつけると、心なしか車にアクセルがかかった。
ぶうぅん!
「おいおいノリノリだな」
「へへっいい風だぜ」
藤井は窓を開ける。気持ちのいい風が車内に流れ込む。
行き先の当てのないドライブ。
事前にマップは見ずに、自由に運転してみようと、無計画で走り出した。
分かれ道が来て、藤井は左へハンドルを切る。
その時、俺の目が標識を捉える。
『高速餃子道路』
「なんだぁ…?おい藤井、へんな道入っちゃったんじゃねーか?」
聞いたことのない種別の道路に、俺は不審感を持つ。
すると、隣の藤井の様子がおかしい。
脂汗をかき、肩がカタカタと震えている。
「お、おい!どうした藤井!具合悪いのか!?」
「ミスった……『高速餃子道路』に……!入ったまったよ!!!」
///『高速餃子道路』///
尋常じゃないその様子に俺は、異常を察する。
俺は免許を持っていない。教習所で学んだ知識がないため、『高速餃子道路』がなんであるか、検討がつかなかった。
「おい!なんなんだよ!『高速餃子道路』って!」
「くそ!『高速餃子道路』に……俺たちは入っちまったんだ……もう覚悟を決めるしかねぇ!」
そのとき、俺たちとは逆方向に走る、反対車線の車がすれ違った。
その車窓から見える運転手の表情は、歓喜に満ち溢れていた。
『高速餃子道路』の出口が近いからか?
なんなのだ、いったい。この道にはなにがあるというのだ!
「おい!藤井!答えろ!『高速餃子道路』にはなにがあるんだ!」
藤井はハンドルを強くにぎしめる。
「『高速餃子道路』は……
高速で……
餃子で……
道路……!
そういうことだ!」
「どういうことだ!藤井!」
藤井は至って真面目だという風だった。
実態が見えてこない『高速餃子道路』。俺は頭を働かせて推察する。
「わかったぞ藤井!『高速餃子道路』は!宇都宮に続く道なんだな!?」
餃子の名産地といえば、やはり宇都宮である。
おそらくこの道は宇都宮に続いているのだ。
しかし藤井は首を振るう。
「違う……!『高速餃子道路』は!宇都宮には続かない」
「じゃあ浜松か!?」
「浜松にも続かない!この道路の先にあるのは……」
「あるのは……!?」
「……海老名だ!」
「海老名!?」
海老名……!?サービスエリアにメロンパンがあると聞いたことがある。
ならばこれは高速道路なのか?
「おい藤井!答えろよ!
『高速餃子道路』は
……高速道路なのか!?」
藤井は、一瞬、目線をこちらへ向けた。
その目元には、、、涙が浮かんでいた。
「『高速餃子道路』は
……高速道路ではない!」
「下道だったのか!」
速度メーターはたしかに一般道に合わせた速さだった。
俺が疾走感のある音楽をかけていたため、体感速度があがっていただけなのだ。
「じゃあ『高速餃子道路』は!
そば街道やラーメン街道みたいな!
餃子店が並んでいる道のことか!」
○○街道という、あるジャンルの店舗が点在している道が、日本各地にはある。
おそらく高速餃子道路には、餃子屋がたくさんあるのだろう。
「……っ!」
藤井は右手をハンドルから離した。
「……!?」
藤井はその右手を……。
自らの膝に乗せて……。
手汗を拭いた。
「藤井……!?」
藤井は右手でハンドルを握りなおす。
「『高速餃子道路』には
……餃子屋は一軒もない!」
「一軒も!?」
せめて一軒はあると思っていた!
そのとき!
窓の外から春風にのって、芳しい香りが運ばれてきた。
それは、焦げたニンニクのかおり。
そしてジューシーな脂のかおり。
「これは!?餃子の香りだ!!!」
俺は確信する。
これが『高速餃子道路』と呼ばれる所以!
店ではないのなら、家庭か……あるいは工場!
餃子を大量生産している拠点がこの道にあるのだ!
餃子の香りを嗅いでいるはずの、藤井は無言だった。
俺は藤井に尋ねる。
「藤井……『高速餃子道路』には……餃子をたくさん作るやつがいるんだな!?
この香りが証拠だ!!!」
「わからん!!!」
「!!?」
「俺は……花粉症だ!」
「藤井ぃ!」
俺は慌ててウィンドウを閉めた。
気持ちのいい風が消える。
「はやく言えよ!」
「言えねぇよ……だってお前……今日は暑いなって言ってたじゃねえか……!」
「気を使い過ぎだ!あと……
藤井……
花粉症なら……
薬を飲め!!!」
藤井は鼻を啜った。
「薬は……
今日……
飲み忘れた!!!」
「藤井!!!」
『きをつけよ
くるまはきゅうに
とまれない
中西中3年生 三好 かずま』
「……………」
「……………」
「おい……いまの看板」
「ああ……」
「中学3年生にしては……
ひねりがなさ過ぎないか!?」
「だよなぁ!」
走りすぎる餃子くん「やぁ」
「俺の方がもっといい5・7・5できるぜ!」
「言ってみろ藤井ィ!!!」
「駆け抜ける
ついてこれるか?
おばあちゃん」
「藤井ィ!!!
……それは
……なんの5・7・5だ!?」
「それは……
風に聞け!!!」
ウィンドウを開ける藤井。
すかさずウィンドウを閉める俺。
「開けるな!暑くない!」
「ズビビビビビビ!!!」
俺たちは『高速餃子道路』を抜けた。
どうやら『高速餃子道路』とは、餃子くんが高速で走り回っている道路のことだったらしい。
『高速餃子道路』 ぴとん @Piton-T
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます