第15話柊と素也③

何が起きたのか柊は理解ができなかった、戸惑い自分の手がどうしたらいいのか分からなくて、宙に舞う。


「素也…?」


柊が呼ぶと、素也の腕の力はさらに強くなった。


「素也、痛いよ」


剥がそうとする柊の腕の力は、全く素也の力の前では歯が立たなかった。


「柊、今はこうさせて…」


耳元で囁く素也の声に、柊も頬を紅潮させる。


普通の友人だった素也に何故こんな、情熱的に抱きしめられているのか、頭が追いつかなかった。


「どうしたんだよ」


柊はなるべく平然を装い、宙に舞っていた手を自分の肩に乗せられた素也の頭に触れた。


自分より身長が高いから、抱きしめられると本当に包み込まれてしまっている錯覚におちいる。


素也も、何故自分が柊を抱きしめてしまっているのか、わらからなくもないが、分かりたくなかった。


けれど、もう誤魔化すことが出来ないほど、自分の感情がコントロール出来なくなっていた。


「…好きなんだよ。俺はお前のことが」


自分にも確かめるように、言葉にしてみた。

言葉に出すと、それが感情の鍵になっていたかのように、柊への押し込んでいた感情が一気に溢れ出てきた。


抱きしめる腕が、震えてくる。

身体が熱くなって、柊に触れたくなる。


「素也…」


柊は触れていた素也の頭から手を浮かせた。


ずっと、親友と思ってきた相手からの告白。


男からされるのは初めてだ。


誰よりも普通に自分と向き合ってくれた、大切な存在。


これが恋と言ったら違う気がした。


でも、素也を傷つけることもしたくなかった。


「素也、それって…」


柊の言葉を遮るように、素也は柊に自分の唇を重ねた。


柊の瞳が大きく揺れる。


驚いたが、拒絶しようとも思わない自分に驚いた。


自分は素也なら受け入れることができるのかもしれない。


柊は素也の首に自分の腕を巻き付ける。

はたからみたら、柊からせがんでいるように見えるかもしれない。


柊の行動に、受け入れてもらえたのだと、素也は喜びを感じ、溢れ出した感情はもう歯止めが効かなくなった。


狭い部屋にはすぐベッドがある。


素也はそこへ柊を優しく寝かせた。


何もかもが突然すぎて、追いつかないけれど、柊はただ一つ、素也を受け入れたい。それだけだった。


恋だ愛だの、なんだっていい。


自分を守り大切にしたいと言ってくれる人が、男でも女でもどっちでもいい。

自分に出来ることは、素也を失わないように大切にすることだ。


「柊、好きだよ」


その言葉に応えたい。


「ありがとう、素也」


その気持ちの表現の仕方を手探りで、探しながら気持ちを確かめ合った。


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