第9話生徒会③
最後の岩下の言葉が輝の脳裏に再び流れる。
資料の量にビビってしまった。
「じゃあ、やろうか」
柊は笑顔でそう言った。
顔は優しいのに、やる事とミスマッチ過ぎて輝の頭は追いつかない。
「生徒会ではまず朝イチに生徒指導の先生に挨拶に行って、資料があれば取りに行って、掲示物があれば、ちゃんと貼りにいくこと。やるべきことはそれほど大変じゃないよ。ただ、今年は周年祭があるから、文化祭とかはたいへんかもしれないね」
「文化祭とか、参加したくない場合は?」
輝はなるべく人と関わりたくなかった。
今までも、仲良くしてきた奴らは自分の家の肩書きがいいから友達になろうとしてくる奴が多かったからだ。
特に、特別な行事の時ほど、そういった奴等が自分に話しかけるきっかけになってしまうのが嫌なのだ。
「許させるわけないだろ?強制だよ」
柊は輝の表情を読み取ることなく、いつもの笑顔でさらりときついことを言った。
「強制って…」
「何が嫌なのかしらないけど、行事と割り切ってやるべきことをやるだけだ」
そう言い放つ柊は、とても笑顔と結びつかない、冷酷な言い方に聞こえた。
偽善者的なことは口にしない。割り切った行動力、筋の通った話し方。
天川柊という人間が、輝には分からなくなっていた。
どれが本当の彼なのだろう…
結局、半分くらい終わると、残りは明日になった。
資料の説明も流石、生徒会長を二期務めるだけあって、分かりやすく噛み砕いて話してくれた。
「輝、家はこのへん?」
「あ、ああ、いえ、電車です」
輝が咄嗟に敬語を使うと、柊は笑った。
「っはははは、急に敬語使うんだ。似合わなくて笑っちゃった」
コイツは…
と、気恥ずかしい気持ちになった。
昨日は敬語を使って先輩と呼べって言ったのは自分なくせに、いざ使うと爆笑なんて。
「一緒に帰ろ。駅まで俺も一緒なんだ」
これが柊の素なのか、自分のことを俺と言った。
輝も拒否する理由も特に思い浮かばず、一緒に帰ることになった。
それに、昨日より警戒心が薄れているのも間違いなかった。それほど、柊を知っているわけでもないのに、安心感が彼にはあった。
素也は部活が終わり、チームメイトと体育館から下駄箱へ向かう時、たまたま柊と輝が二人で帰るのを見かけた。
柊の柔らかな笑顔に、ぎこちなく笑いながら相槌をうつ輝、仲良さそうに一緒に帰っていった。
目が離せなかった。
「名護?聞いてる?」
チームメイトが素也に話しかけると、我に返り話しを合わせた。気になりながらも、自分があんな転校生に嫉妬心抱くことがバカらしくて辞めることにした。
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