第2話新学期②

 気にはなったが、柊は黒板にスケジュールを書くことに専念した。


 そこへ現れたのは、


「柊、相変わらず早いな」


 同じ学年で、柊と幼馴染の名護素也だ。


「ああ、素也おはよう」


 柊は自然と表情が綻んだ。

 別に着飾っているわけではない。でも、皆が見ている自分は、本当の自分ではない気がしていた。


 柊は特に特別なことをしているわけでもないのに、皆から憧憬の眼差しでみられてしまう。


 そんな柊を唯一同等に接してくれる相手が、素也だった。


 柊とはまた違う魅力のある彼に憧れる後輩もいた。


 部活のエースであり、成績も柊と一位二位を争う中だし、数学と物理や化学ではいつも柊より点数が良かった。


 そして、クールな顔立ち。少し長めな髪で前髪は後ろ髪と同じくらいあるためいつも分けているか、部活の時はピンで前髪を止めていたりする。


 そんな姿に他校に練習試合で訪れると、女子生徒がこぞって見に来るという。


 彼はバスケ部の主将も務めており、去年までは柊と共に副生徒会長として活躍していたが、今年は三年という大切な時期ということもあり、部活に専念したいと生徒会を離脱した。


素也は柊に近づき、柊の持つ手帳を覗き込んだ。


「なんか、今年イベント多くない?」


素也は柊の手に持っている手帳を覗き込んでいった。


「まあ、50周年だからね。それに伴って、お祝い行事が多いから打ち合わせとかだよ。それより、どうしてここにきたの?部活に専念しないと」


「なんか、冷たい言い方だなぁ。流石に新学期1日目は部活ないよ」


「冷たくしたつもりはないよ。そっか、初日だもんね。いい後輩バスケ部に入ると良いね」


相変わらずの優しい柔らかな笑顔、素也は真顔でその横顔を眺めていた。


その視線に、柊は気になりため息をついた。


「さすがに、そんだけ見つめられると作業しにくいんだけど」


「いいじゃないか、天使の顔をずっと見ていたいんだよ」


そう、茶化していうと柊の頬をぷにぷにと摘んだ。


「素也、やめて」


柊は不貞腐れたように素也を睨むと、素也は面白そうに笑った。


「本当、可愛いやつ」


そういって、素也は柊の額にキスをした。


柊は驚いて素也を見つめると、次第に顔が紅潮していった。


「学校ではそういうこと、しないでっていってるだろ」


「悪い悪い、あまりにも桜の花びらをつけてる柊が可愛くて」


素也は、優しい手つきで花びらを取る。


「大人気バスケ部主将が、生徒会長に手出してるって噂流れちゃうよ?」


そう言って、微笑む柊はまるで、天使というより小悪魔に見えた。


そんな、柊を愛おしそうに見つめ、素也は後ろから抱きしめた。


「そうだな、悪い虫がつかないためなら、自分でそういう噂流そっかな」


「何言ってんだよ」


「じゃあ、俺は教室に戻るよ。頑張れよ」


そんな、飄々と去って行く素也に、不貞腐れながらも、少し嬉しそうに微笑み再び黒板に向かう。


そして、もう一度中庭に目を向けたが、先ほどの金髪はいなくなっていた。


「今年は最後の高校生活か」


晴れた空を眺めながら、柊は陽だまりに包まれるように目を閉じた。


そんな彼を下から、見つめる視線があった。


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