腕の二つの虫刺され
穂麦むぎ
腕の二つの虫刺され
春になりつつあるある日のこと
シャワーから出ると、なにやら足が異様にかゆいことに気づいた。上半身を拭いて、下半身に手を伸ばすついでに、そっと観察する。
ぷく、ぷく、
どうやら二か所を虫にやられているらしい、右足のふとももとふくらはぎに一か所ずつだ。最近妙に暑かったせいか、季節外れの蚊が飛んでいた。たぶんそれだろう。
「はぁ~」
かゆみをどこかへ飛ばすために息を吐いた。
パンツを履いて早々に居間へ移動し、軟膏をそこへ塗った。
翌日のこと
いつも通りにシャワーを浴びて、タオルで体を拭く。すると昨日までかゆかったふとももやふくらはぎはまだ腫れているもののどうということはないのだが、足の甲にちゅくちゅくとかゆみがあった。
またそっと目をやると、ぷっくりと二か所腫れている。
パンツを履いて、また軟膏を手に取り、忌々しく塗ってやった。
さらに2日経ち
シャワーを浴びて、身体を拭く。パンツを履いて、ふと下半身からこのまえまであったかゆみがなくなっていることに気づいた。
みてみると、まだ腫れは完全に引いていないものの、悪化はしていないようだった。
冷蔵庫からジュースを取り出し飲んだ。温まったからだに冷たさが沁みて、脳みそから「気持ちの良い」という信号が大量に送り出されているのがわかる。
ふと腕に目を落とすと、二か所が虫に刺されて腫れていることに気づいた。そして、気づいたとたんにかゆくなってきてしまうからどうしようもない。
イライラで乱されないように努めて冷静に装いながらテーブルの軟膏に手をのばした。
3か月が過ぎた。
腕に虫刺されができてしばらく経つが、いっこうに腫れがひいていかない。
もうとっくにかゆみもなくなっているのだが、腫れだけが取り残されている。
これまで、気にしないようにして生活してきたが、もうどうにも気になってしょうがなくなってしまった。
病院にて
お医者さんにこの腕の虫刺されを見せると、「これがもう3か月くらいあるんですか」と、どう返せばいいか分からないようなことを言われ、とりあえずレントゲンを撮ってみましょう、ということになった。
レントゲンを撮り終えて、また診察室に呼ばれていくと、お医者さんが、不思議なようで、困ったようで、恐れるような、怖い顔をして迎えた。
「これが、あなたのさっき撮ったやつなんですけどね、これ、どうもなにかの虫にみえるんですよ」
虫?
腕の中にに虫がいると言われ、私は怖くて腕を睨みつけた。
お医者さん曰く、触診からさすがに生きていることはないだろう、ということだった。
しかし、腕に虫をとどめておくのは、気持ちが悪いから、手術で取ってもらうことにした。
部分麻酔であったが、私からは見えない確度で手術は行われ、無事終了した。
お医者さんに、「取り出したものは、ご覧になりますか」と、聞かれたが即答で拒否した。
その帰り道、腕に虫がいるなんて、こんな経験をした人がほかにいるのかと、ネットで調べてみた。
いくつかの記事を斜め読みしたが、一つ怖い記事があった。その例では、「オスとメスの対の虫が体の中に侵入して、そのまま血管内で繁殖をしていたらしい。その患者さんは体中に虫がまわって帰らぬ人となった」とあった。
そうなる前に、虫を退治してくれた私の免疫に感謝した。
看護師A「先生、その虫、おなか膨れてませんか?」
腕の二つの虫刺され 穂麦むぎ @neoti_2020
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます