HP1からの死闘
ネーブルから距離をとり、後ろを向く。
すると次の瞬間、後方で轟音が鳴り赤い光が
(やっぱ、ネーブルの技はレッド・ドラゴン由来だった……)
すぐに感じる不快感はプレイヤーキャラクターが撃破されると起こるものと同じ。
ほんのわずかな間、自分のキャラクターとリアル世界の肉体のシンクロ率が下がり、曖昧な状態になるが、それは一瞬で終わった。
ゲーム世界にしっかり意識は戻り、片手を前に出すことで、倒れかかった自分のキャラクターの体を支える。
そのままぐるりと回転してから銃口をネーブルに向ければ、オレの後ろの方ではネーブルだけが立っていた。
エリカさんとリゲルさんが居た場所には数個ずつアイテムが転がっているのみ……。
しかし、今そこに気を取られすぎるのは良くない。
込み上げてくる嫌な気分を無視し、冷静にネーブルを観察する。
奴はオレのユニークスキル”チョップ・チキン”の自動反撃をモロにくらったんだろう。
HPは残り5%未満になっていた。
もちろん”チョップ・チキン”の効果の所為でオレ自身もHP1という極限状態になっていて、ネーブルの視線がこちらを向く前に素早く修復剤を一本使ってHPを半分ほどに戻す。
ある意味、ここからが本番だ。
「––––よぉ、死にかけ」
『……仲間を見捨てて逃げたかと思ったのに、何で戻ってきたんだよ』
「理由は一つ。お前を殺してやるためだ」
『ちっ、うっとおしくなってきた』
ネーブルは舌打ちの後、猛スピードで突進してきた。
奴は死を前にして焦っているのか隙だらけ。
すでに自分の行動パターンをオレに記憶されてるとも思わないらしい。
オレの目の前2mほどの距離から巨大な爪を振るわれる。
しかしその1テンポ早くに動いたオレは、ネーブルの爪が上がった直後にスライディングで移動して、奴の背面をとる。
至近距離で撃ち放ったショットガンの銃弾は全てネーブルの背中から尻尾にかけてHitした。
その中でも、ある一箇所にあたった小さな弾丸により”Hit”の文字が大きく表示される。これはネーブルの弱点に当たったことを意味するはず。重要すぎる情報だ。
(尾の先の赤くなっている部分……。あのくっそ小さい部分がネーブルの弱点か?)
蠍にも似た尾の先は鎌のようになっており、記憶を辿ると先端はいつもオレとは逆を向いていた。つまり、そこが弱点だから隠していたんだろう。
(硬くて素早いだけみたいな奴だし、弱点が分かったらもう楽なもんだな)
次々に飛んでくる火球をキャラコンで全て避け切り、同じようなタイミングで振り上げられた爪をネーブルの背面に回って回避する。
オレからの次なる1発は奴の弱点のど真ん中に命中した。
ネーブルから憎しみのような、痛みのような声が上がるが、知ったこっちゃない。
残るHPはもう1%程度。
1発でも弱点に当てられたなら、こちらの勝ちだ。
オレは床に落ちていたリゲルさんのガンランスを拾い上げる。
『何でこんな目立つ場所に弱点がつくんだよ! ソルティ・ソリッドのスキル”リレーショナル・ディテクション”を使用してパーツを集めたからこうなったんだ! ぜーんぶ、お前の所為だ!!』
「知るか。じゃーな、バケモノ」
通路の向こう側に逃げようとするネーブルに向かって、オレはリゲルさんのガンランスの引き金を引いた。
ショットガンの弾薬よりもデカイ、いわゆる砲弾がネーブルの尻尾全体に当たる。
ネーブルのHPバーは全て灰色となり、小爆発するようにしてパーツが飛び散った。
「やっと終わった〜……」
予想以上の手こずりに、精神的にけっこう疲れたかもしれない。
憎い相手を殺せてスッキリしたかというと、特にそんなこともなく……、ただ徒労感が何となくあるのみ。
(AIか……、そういえば大学の講義で、教授が感情を持つようになったとか言ってたな。やっぱこのゲームはだいぶ危険なゲームだ。エリカさんがネトゲ中毒状態でも、危機感を抱いたのも分かる)
犠牲になってくれたエリカさんとリゲルさんの武器やアバターパーツを拾える分だけ回収するため、少しの間通路を歩き回っていると、足の下からパキリと音が鳴った。
足を上げてみれば、踏んだのは小さくて赤いパーツ。
以前レッド・ドラゴン戦前に目にした妙なアイテムと形状が良く似ている。
「これ、壊せるのか……」
また拾ったなら以前のようにバグが発生しそうに思え、
すると、今度はダンジョン全体が揺れだした。
壁や天井に亀裂が入り、パッと見崩壊が始まっているようだ。
「もしかして、ネーブルがこのダンジョンのボスで、オレが倒したからダンジョンが消えようとしてる!? ヤバイ!」
オレは大慌てでダンジョンから脱出し、すぐにゲームからログアウトした。
その途中で思い出したのだが、アーティファクト・ドールの娘にゲーム内で撃破された場合、リアル世界において生身の肉体の方がヤバイ状況になる可能性があるのだ。
はたしてエリカさんとリゲルさんは無事なんだろうか?
机の上のスマホを、オレは
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