撃破覚悟でチキンとなる
床から出現した数体のドールを撃ち落とせなければ、即死級の技が来るかもしれない。エリカさんとリゲルさんにも援護を頼むか迷うが、リゲルさんはネーブルの抑え込み、そしてエリカさんはヒール。それぞれ手いっぱいなようだ。
ここは自分で処理するしかない。
以前射撃場で検証してみた感じだと、ショットガンタイプのウッドペッカーと機関銃タイプのボルケミック・フレイムでは、ウッドペッカーの方が同一ダメージを出すために必要となるMP量が少なくて済む。
しかし裏を返せば、1発外した時のMPロスがより大きいわけで……、ボルケミック・フレイムよりも精度が必要となる。
幸いにも本日のエイムは好調。
手前側を浮遊するドールの頭に照準を合わせて、1発でしとめる。
次の個体もきっちり打ち落とし、三体目も四体目も頭部にヒットさせる。
これで半数以上片付いたはずだったが、視界端に再びニョキニョキと生えてくるドールを見つけ、ついつい愚痴をもらす。
「いったいどんだけ出てくるんだよ……」
オレの独り言はエリカさんに聞こえたようで、まん丸の目がこちらを向く。
「佐藤さん! なんかモブのドールみたいなのを撃ってるけど、理由があったりする?」
「床から出てくるドールを倒し切らないと、大ダメージの範囲攻撃がくるんじゃ無いかと思ってる。ただの想像に過ぎないけど」
「うあぁ、やばいじゃん! 私も手伝うよ!」
「一人でやる。エリカさんはリゲルさんのヒールに専念してほしい」
「そ、そっか! 分かった!」
ヒールをするにもMPが必要だし、エリカさんがヒールと攻撃を両立できるタイプの人なのかどうなのかもよく分からない。
だから、それぞれの役割に徹した方が安全だと判断する。
360度の方向全てを確認しながらドールを倒し切り、リゲルさんとネーブルの方を見る。
すると、リゲルさんの攻撃により、ネーブルのHPは60%程度まで減っていた。
彼女の強さに感動すると同時に、わずかな絶望も芽生える。
ネーブルを倒し切るのと、オレ達3人のMPや物資が尽きるの、どっちが先になるんだ???
今までの戦闘内容を考えると、ギリギリ倒せなそうなんだが……?
しかし無理そうだからと手を休めるわけにもいかない。
複雑な心境でウッドペッカーを構え、ネーブルに照準を合わせる。
(まぁ、やれることはやってみよう。ボルケミック・フレイムで撃ってみた感じ、どの部位もくっそ堅かったんだよな。でも、首の骨とか肋骨なんかは他の部分よりも地味に与ダメージ量は多かったか)
リゲルさんがネーブルの位置を固定してくれているおかげで、攻撃自体は容易い。
脳死で銃撃作業に入ろうとしたが、不意にネーブルの歯がカタカタと鳴ったのにイラッとする。
(あいつ笑ってる? 何がおかしいんだ)
ウッドペッカーの引き金を引き金を引きながら、音で周囲の状況を探ろうとすると、後ろの方から「またぁ!?」とエリカさんが声を上げるのが聞こえた。
まさかと思い、振り返る。
視界に広がる光景に絶望した。心の底から……。
さっき倒した数の3倍ほどのドールが床から出てきていたのだ。
(オエェ……。精神的なダメージ食らうって)
気が遠くなりつつも再びNPCドールを相手にするが、ネーブルが追い討ちをかけるようなことを言い出すので完全に手が止まる。
「アハハハハ!! あのさ、もう10秒で倒し切らないと、お前等3人共消えてなくなるよ。どーすんの!?」
「はぁ!? 10秒!? 無理すぎるだろ!」
ネーブルの煽りに怒鳴り返す。
実際もう無理だ。10秒でこれだけのドールを倒せるわけがない。
しかし、無力感に思考が鈍くなった脳がたった一つだけの行動にわずかな可能性を見出した。
獲得したばかりのユニークスキル。
あれがうまく作用するかどうかは分からない。
だが、ここでおとなしく全滅するくらいなら、それにかけてみた方がいいだろう。
エリカさんとリゲルさんに提示するのは若干の抵抗があるけれど、黙ってやるわけにもいかず、一応宣言しておく。
「二人ともごめん。オレ以外はこの技で死ぬと思う。もしオレが生き残れたら、落ちたアイテムを出来るだけ拾うから」
「分かったよ!」
「任せました。ゲームを再開した際に手伝ってください」
二人の返事を聞いた後、オレは扉と通路の境目付近まで高くジャンプし、ネーブルが居る方向とは全く逆側を向いた。
ネーブルが使用しようとしているレッド・ドラゴンの必殺技がどのくらいのダメージなのかは分からない。だからこの行動は賭けでしかないのだ。
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