黄煙の森〜入口〜
開始都市周辺のテレポ解放を完了した後、オレはエリカさんと二人で最寄りにあるフィールドダンジョン”黄煙の森”へ向かう。
目的はレアアイテムであるメディカルボックスの獲得。”黄煙の森”に生息するモンスター、ゴールデンマイコニドとかいう、動くキノコのモンスターからごく稀にドロップするようだ。
エリカさんのユニークスキル【確率改変】があるわけだから、ドロップ率が10%上がり、他のプレイヤーよりも獲得のための時間は少なくて済む……はず。でも、ゲーム全般に言えることだが、ゲーム内での確率ほどあてにならないものもないし、楽観的にはいられない。
大ワシの背から飛び降り森の入口まで行くと、卵の腐ったような匂いが一瞬だけした。そして、どこからともなく、銃声も聞こえてくる。
複数人が同時に撃っているようだけど、その対象はキノコのバケモノなのか、狩場をめぐり、プレイヤー同士の抗争が起きているのか。
どっちの場合だったとしても、1パーティ以上いるのは確かだ。
「すでに誰かが森の中に入ってるみたいだな」
「だね。私、森の上を大ワシで飛んで、中の様子を観察してくる! 佐藤さんはここで待っててよ」
「え……。それって危なくないの––––」
オレの話が終わるより前にエリカさんは大ワシを呼び出し、乗ってしまう。
あっという間に上昇し森の木々の上を飛ぶ彼女の近くを、さっそく幾つもの射線(銃口を向けられ、撃たれている状態)が通っている。
それを見ていると頭が痛くなってくる。
彼女の持ち物の総額に比べたならショボイかもしれないが、彼女はオレの所持品の共同所有者でもあるわけだから、気をつけてほしいものだ。
「オレに注意する前に、まずは自分が危なっかしい行動してるのを自覚してほしいもんだ。大ワシのデカイ羽根は目立つし狙いやすいってのに」
腕に自信のあるプレイヤーだったら、”マイコニド”を地道に狩り続けてレアアイテムを狙うよりも、それを狙いに来たプレイヤーを狩る方が楽だろう。
もちろん今のオレはエリカさんとはぐれたわけだし、複数人のプレイヤーに襲われたら、普通に負ける。
もしもの時のために、オレは自作のウッドペッカーをリロードしておく。
そうこうしている間に、森の中から複数のプレイヤーの声が僅かに聞こえてきた。
(こっちにも誰かが向かってきてるな。もしかすると、先入りの奴等に追い返されたプレイヤーか? 負けた側に仕掛けてこられたら最悪だな)
鉢合わせになる前に、オレは素早く森の中に入り、木の影に隠れる。
対面で1対
森の奥の方向から死角になるであろう位置でウッドペッカーを構え、声の主達が来るのを待ちうける。
「––––アイツ等、何でこんな序盤のフィールドダンジョンなんかに居るんだよ!!」
「わたしたちと同じ目的なんでしょ! 所持品を奪われるわけにはいかないんだから、早く逃げなきゃ!」
「オレ達2人の他に、3パーティも! 地獄かよ!」
奴等の話から判断するに、ここに来ようとしているのは2人らしい。
確かに足音も二人分。これならオレ一人でも
まずは確実に一人落とす!
足音の主のうち一人が木から頭半分出したところで、オレは名乗りもせずにヘッドショットを撃ち込む。
女型のドールが倒れると、男型の方が素晴らしい反応速度を見せた。
––––オレが追加で撃った銃弾を手に持つ斧で弾き、サブ武器のピストルで撃ってきたのだ。
「山賊どものねじろに、たった一体で乗り込むとはな。このクソゲーを引退する前に一暴れしようって考えか?」
「引退どころか、βテストを始めたばっかだ。悪いけどお前にはここで消えてもらう」
「チッ、量産ヅラのクセに生意気な」
巨大な斧を盾代わりに使われるのはやりづらいが、こっちは何年間もFPSをやり込んできたんだ。一対一の撃ち合いに負けるなんてことはない。
相手が倒した木々を逆に利用し、腰に1発そして胸に三発、と当てていききっちり倒しきる。
倒した場所にはプレイヤー二人分の所持品が散乱している。
大抵のものはあまり値段が高くないようだが、たった一つ、超高額のアイテムが混ざっていた。
それはマジカルナースマインド(ヒーラータイプのアバタースキル)が発動するアバターパーツの一つ、ナースキャップだ。エリカさんの所持品の中に入っていないのを確認し、オレはさっさとそれを自分の所持品に入れてしまう。
さらに、男のドールが落としたピストルもそれなりに良い性能だったので、こちらは自分のサブ武器とする。
(なるほど、エリカさんがVRMMOFPSって言ってた理由が分かった。他のプレイヤーを倒して自分の財産を築いていくのも、そこそこ楽しいな)
上空を見上げてみると、エリカさんが降下してくるところだった。
ナースキャップのことを知らせたら、喜ぶかもしれない。
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