狙撃準備

 オレは森で遭遇したプレイヤー2人を倒す。

 そいつらの所持品をあさった後に、上空からエリカさんが降りて来た。”黄煙の森”に先入りしていたパーティに撃ちまくられていたようだったけれど、無傷なのは、彼女が持つ杖で何かしていたからなんだろうか?

 

「佐藤さんの戦闘、上から見てたよ! 一人で二人倒せちゃうなんて、凄いじゃん」

「いやー。別に。直ぐに一人倒せたから勝てただけっていうか」


 可愛い見た目のキャラクター(しかも中身の人も可愛い)に褒められまくると、流石に照れる。このゲームの場合、厄介なことにオレの照れ具合が操作キャラクターにも反映され、挙動不審になるもんだから、いたたまれなくなる。


「そ、それよりも。今倒したプレイヤーがナースキャップを持ってたんだ。オレの所持品に入れてるから、エリカさんが使ってくれ」

「えー! ホントだ!! そんな偶然あるんだ」


 早速ナースキャップを身につけた彼女は当然のようによく似合っている。

 頭部のアバターパーツに髪型のデザインも組み込まれているようで、耳の下あたりで結ぶタイプのツインテールに変化している。それがまた新鮮な感じがしてとても良い。

 

「どうかな?? この辺に鏡ないから、自分で確認できなくて困る!」

「かなり似合ってる」

「良かったー!」


 自分のちょっとした作業で身近な女の子(二次元)が可愛くなっていくのはいいものだな。オレはちょっとした達成感に浸りながら、もう一つの獲得品であるピストルに【リレーショナル・ディテクション】をかけてみる。

 しかし、ウィンドウは何も出てこなかった。

 どうやら、この武器はどのアバターパーツとも関係ないようだ。


 アバタースキルを発現しないタイプの武器をサブ武器として使用し、アバタースキルを発現するタイプの武器をメイン武器として使用するのが正しい選択って感じだろうか?


 自分の考えを信じて、武器のメインとサブを設定していると、再び遠くからの銃声が耳に届く。


「……エリカさん。森の様子、上から見てみてどうだった?」

「木とかが邪魔であんまし見えなかったんだけど、3パーティくらいはいそうだったかな? 全部でおそらく10人」

「10人!? 思ったよりも多いな」

「潰しあってくれているから、3勢力ともジワジワ人数が減ってはいるよ。もう少し様子見する? それとも、出直す?」

「そうだなー。……時間が勿体無いし、木の上から狙撃して、ヘイトをためすぎないように人数を減らそうと思う」

「マジで?」


 さっきのドールが持っていたピストルは銃身が細めで、撃った直後の銃身の跳ね上がりで視界が大きく遮られずに済みそうなデザインをしている。しかも、ウェポンスキルの性能も良い。

 3倍スコープのスキル付きなんて、オレが作り続けた武器にはなかった。

 

「どっかに森の奥の奴らを狙うのにちょうど良い木とか無いか?」

「あっ! だったら、こっち!」


 さっき大ワシで飛んだ時に、木の配置も確認してくれていたのかもしれない。その観察眼を信じ、エリカさんの案内に着いていく。


 到着したのはクスノキに似た大木たいぼくだった。

 ちょうどいいくらいに葉っぱが生い茂っていて、隠れるの適している箇所が幾つもある。


「確かに、これだとうまくいくかもしれない」

「ふーん。でもさー、連れて来てから言うのもなんだけど、このゲームって木をよじのぼったりできないよね? 大ワシで送って行った方がいい?」

「そんな事したら、他のプレイヤー達に位置がバレて台無しになる。……多分、キャラコンでなんとかなるはず」

「んん? ジャンプとか?? 流石にそれは無理でしょ!」

「このゲーム、工夫次第で垂直移動ができるから」

「嘘だー」


 全く信じる気のないエリカさんに少しムッとし、オレはタンッと地面を蹴る。

 まずはジャンプ、そしてスライディング……と操作していき、一番低い枝の上まで移動する。エリカさんの息を飲むような声を無視し、今度は同じ動きの組み合わせで中ぐらいの位置まで一気に行ってしまう。

 ニヤッとエリカさんを見下ろすと、彼女は目を見開き、オレに対して指を差す。


「そんなキモイ動きをするプレイヤー、初めて見た!」

「キモイとか失礼だな。最初の街を出るまでにひたすら練習したから、色々できるようになっただけだ。というか、デカイ声を出さないでほしい。バレるから」

「わわ……。ごめん」

「エリカさんは下からプレイヤーとか、モンスターが襲ってこないように、周囲を観察してて」

「了解」


 彼女が小声で返事をするのに頷き、オレはピストルのスコープで索敵(敵を探す行為)を始めた。


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