ヒーラー職の新発見

 Vチューバー”マミヤ”の代わりに配信をやった後にエリカさんと話をしてみたところ、彼女は”マミヤ”のリスナー達に若干苦手意識を持っているらしい(元リスナーとしては複雑な心境ではあるけれど)。


 だからオレが彼等の前で”マミヤ”のガワを被って出たことにとても感謝していて、お礼としてMMORPGアーティファクトバトルドールズの各都市の開通に付き合ってくれることになった。

 ゲーム内の都市にはテレポート機能が備わっているため、一度訪れておけば、その後自由に、しかも数秒でテレポート出来る様になる。だから、彼女の提案はオレにとっては結構有難かった。

 ただし、クエストの進行と紐づいている場所もあり、そこは自分でなんとかするしかない。


 家に帰ってからまとめサイトをチラッと見たところ、さっそく”マミヤ”の復帰の件がまとめられていたが、オレはタイトルだけ見て、ブラウザを閉じた。

 やっぱり”マミヤ”の影響力はそれなりに大きいんだな。某掲示板で今日の配信を好き放題書かれてるだろうし、記事の中身を読んでしまったら、たぶんオレ精神は崩壊するだろう。


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 そんなことがあった次の日、土曜日ということもあり、エリカさんと午前10時に遊ぶことになった。

 いつものように武器を作りながら彼女からの連絡を待っていると、10時を少しすぎた頃合いに、彼女本人からフレンド登録の申請が飛んできた。

 ウインドウに表示された【 はい or いいえ 】のうち【はい】の方を選ぶと、すぐに変な効果音が鳴り、通話用と思われるスピーカーが表示される。


『佐藤さんおはよぅ!』

「おはようー」

『昨日はお疲れー。なんか佐藤さんの昨日の雑談配信が話題になってるみたいで、youtube上に幾つか切り抜きが上がってたよ。『こういう”マミヤ”も新鮮でいいかも』だってさ。リスナーさん達に受け入れられてる!』

「その話はもういいや……」


 昨日家に帰りながら思ったが、このVチューバーという仕事は想像以上にハードだ。

 やってみるまでは、気ままにゲームやったり雑談をやるだけでチヤホヤされ、高収入を得られるんだと思ってた。しかし、実際には事前に決めた内容を話すのを数分間話すだけでも精一杯だったし、喋り方も佐藤司オレ以外の何者にもなれなかった。

 役割を果たすことにばかり気を取られすぎて、演技をするまでは出来なかったのだ。


 オレが昨日の配信の振り返りをしている間に、エリカさんから『そっちに移動するよ』とテルが入り、約3分間後に目の前にエリカさんが現れた。


 今日の彼女は薄桃色の髪をツインテールにし、青のストライプ模様のエプロンドレス(?)を着ている。その姿で連想するのは秋葉原とかにあるメイド喫茶の店員。

 膝丈のスカートからのぞくフリルがとても可愛い。

 しかし、できれば頭にも良さげなアバターパーツをつけて欲しいところ。……他人のキャラに対して望みすぎだろうか?


「どうかな、このドレス? 昨日佐藤さんが帰った後に、ゲームにログインしたんだけど、これがオークションに売りに出されててさ、えっちゃ高かったけどついつい競り落としちゃった」

「かなり可愛いと思う。でも、出来れば頭にも良さげな装備をつけてほしい」


 不思議なもので、自分の虚無顔のキャラの格好はどうでもいいのに、エリカさんのキャラの外見には興味がある。自分のキャラの顔や全身はゲーム内の鏡などがないとよく分からないが、他人のキャラは全身が見えるからなのかもしれない。


「あ、じゃあさ! アレかけてくれない? 【リレーショナル・ディテクション】! 佐藤さんのユニークスキルなら、今の私に必要な装備が分かると思うんだよ」

「やってみる。【リレーショナル・ディテクション】」


  例によって、ずらずらと出現したウインドウを眺め、最後に書かれたアバタースキルの名称に驚く。


(★ブルーストライプエプロンドレス(胴))––(メディカルボックス(武器:多機能箱))––(ナースキャップ(頭))––(クラシカルタイツ(足))→(アバタースキル:マジカルナースマインド(上))


「「ヒーラー職!?」」


 エリカさんと声がハモった。

 一昨日ガンナーマインドが発現する組み合わせを知った後、様々な媒体でアバタースキルについて調べてみたけれど、SNS上ではまだヒーラー系のスキルを獲得出来たものはいないみたいだった。

 だからこそ、彼女も驚いているんだろう。


「あ、あのさ、佐藤さん!」

「うん」

「今日メディカルボックス掘りに付き合ってくれないかな?? レアアイテムだから、時間がかかるんだけど……。各都市のテレポを開通したらでいいから!」


 可愛いキャラで頼み込まれてしまっては、さすがの俺でも断りづらい。

 オレは今日自分で立てていた予定を無視し、「いいよ、別に」と返した。



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