某コーヒーチェーン店

 次の日、午前から午後にかけてゲームにログインしたオレは再び武器を作り、ウェポンスキル付きの武器をそれなりの価格でオークションで販売した。

 昨日ゲットした【リレーショナル・ディテクション】はクラフター的な活動をするオレにとっては有難いスキルだ。これを使うとかなり効率的に武器製作が出来て、日中だけで3百万ゴールドものゲーム内通貨を稼ぐことが出来た。


 しかし、各スキルの使用にはMP(マジックポイント)を使用するため、連続で使ったら再びMPが貯まるまで他のことをすることになる。


 本日何度目かのMP切れを起こしたオレは、そのままゲームをログアウトし、多少まともな服に着替えて、先日エリカさんと会ったコーヒーチェーン店へと向かう。


 学生やら社会人やらでごった返す繁華街を居心地の悪い思いをしながら歩き、緑色を基調にした店の中に入ると、エリカさんが先に来ていた。

 この前と同じところに座り、コーヒーフラペチーノをかき混ぜている。

 たったそれだけの動作をしているだけなのに、妙にサマになっていて、周囲からの視線を独り占めにしている。

 

(あの人やっぱり可愛いもんな。ゲーム内のアバターも可愛かったけど、外でも芸能人並みに可愛い)


 頭の中が”可愛い”で埋め尽くされ、動きを止めたオレだったが、エリカさんはちゃんと見つけてくれた。

 頬の高さで片手を小さく振り、合図してくれている。


(オレみたいなド陰キャが、あんなに可愛いJKに近寄っていいのか。てか、今日も制服で着てるし)


 一応オレは大学生なので(サボりまくってはいるが)、ギリギリセーフ……と思いたい。


「おっす、佐藤さん。逃げるかと思いきや、ちゃんと来てくれたね」

「あー、うん。こっちも頼み事あったから」

「頼み事? ふーん?? 今スマホでピザの注文しちゃったから、とりまウチまで移動しよっか」

「分かった」


 身軽な感じで立ち上がった彼女は、茶色の紙袋をサッとオレに向かって突き出す。


「?」

「これ、君の分。適当に選んで買っておいたから」

「あ、有難う?」


 袋の中を覗いてみれば、発売されたばかりのストロベリーフラペチーノが入っていた。まさか現実世界の女子に友達並みの扱いをされるとは思ってなかったから、変な汗が出てくる。


「いくらだった?? 代金は自分で払う。なんならエリカさんのも払うけど」

「私は佐藤さんの雇用主なんだから、このくらい奢ってあげるって」

「そうなのか。何かが違っている気もするけど」

「細けーことはどうだっていいんだよっ。行こっ」

「あ、はい」


 なんだか情けない感じだけれど、エリカさんが楽しそうだからいいか。

 さっさと外へ出る彼女に置いて行かれないように、オレも足早に追いかける。

 

 外に出てからピンク色の飲み物を口に含むと、頭が痛くなるほどに甘い。

 それをサッサと袋に戻してから、オレは忘れないうちにエリカさんに交渉を持ちかけてみる。


 もしかするとだいぶキモがられるかもしれないけれど、OKしてもらえたらβテストを有利に進められるはずだ。


「マミヤの代わりに配信することになった件なんだけど」

「うん。佐藤さんが引き受けてくれるとは思ってなかったから、さっきから落ち着かない気分になってるよ」

「断った方が良かったな!?」

「違う違う。有難いなーと思ってさ。続きを話して」


 オレは彼女の好奇心に満ちた目から視線を逸らし、交換条件を提示する。


「配信する代わりに、エリカさんの所持品とオレの所持品を共有状態にしてくれ」

「共有って、『アーティファクトバトルドールズ』内で?」

「それ以外に関わりあるゲームないだろ」

「ゲーム外の話かと思ったんだよ。例えば、遠回しに私のフラペチーノ味見したいって言ってる可能性だってあるわけじゃん」

「あ、あるわけないだろ……」

「冗談だって。アーティファクトバトルドールズで所持品の共有してもいいよ。むしろ気づいてあげられなくてゴメン」

「謝られるほどでもないけど」

「うん。えーとね、他のプレイヤーに簡単に負かされないでよー?。一応私、時間かけてアイテム集めたんだから、サクッと倒されて他のプレイヤーに奪われでもしたら、リアルで叫んじゃうよ」

「大丈夫だとは思う……」


 あのゲームはPvPエリカでキルされると、その場に所持品が散らばる仕様になっている。だからゲーム内の富豪が一夜にしてアイテムもゴールドも、キャラ自体も全てロストし、最序盤の街からスタートすることだってある。

 このゲームは無駄なほどにマゾいのだ。


 オレやエリカさんが現在持っているアイテムの種類なんかを話しているうちに、彼女の家に辿り着く。その立派さに、オレは間抜けな顔になった。


「豪邸だ……」


 かわら屋根付きの立派な門の奥には木造の和風建築やら、こだわりを感じる日本庭園やらが見える。この家に住んでる人間が陽キャなギャルだったり、バ美肉おじさんだとは誰も思わないだろう。


「佐藤さんには兄の部屋に行ってもらうからね」

「……マミヤって今自分の部屋の中で寝てる?」

「兄は入院中だからいないよー」

「良かった。寝ているとはいえ、本人の前で配信するなんて地獄だからな」


 今更不安な感情が押し寄せてきたが、立ちすくんでいるとエリカさんに背中を押され、真宮家の門をくぐってしまったのだった。

 

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