ゲーム内でエリカと遭遇
ちょうど気になっていたアバターパーツを身につけるプレイヤーキャラクターを目にし、オレは年1回レベルの積極性を出す。
「ちょっと待ってください! そこの……ウェスタンハットの人!!」
「んん??」
振り返ったプレイヤーキャラクターの顔面を見て驚く。
ぱっちりと開いた目に、小さな唇。顔のバランスがとんでもなく整っている。
髪色もデフォルト色ではなく、桜の花のようなピンク色をしていて、瞳の色は吸い込まれそうな空色。今まで見てきたキャラクターなんかとはまるで別物だ。
コラボで別ゲーからやってきたと言われても信じてしまうかもしれない。
これほど初期のキャラクターデザインと差がつくと、人によってはかなり劣等感を感じてしまうだろう。
もしリリース後のガチャでこのレベルで可愛いパーツが実装されたら、重課金者が多くなりそうな気がする。
感動半分、呆れ半分で挙動不審になっているオレに対し、向こうも何か思うところがあったようだ。
「あれ? ……君って、佐藤さんじゃん。佐藤
「なぁ!? 本名はやめろって! ってか、何でオレの名前を知ってるんだよ。怖すぎだろ」
ゲーム内では殆ど誰とも絡んでいなかったのに、どうしてオレの個人情報を掴んでいるのか?
オレにストーカーがついても思えないし、もしかして誰かに恨まれて個人情報が晒されているのかもしれない。
「悪いけど、通報するからな」
「通報? 何でよ??」
「考えてもみろよ。見知らぬプレイヤーに本名で呼ばれたんだぞ。気持ち悪すぎるだろ」
「あー、あはは。確かにそうなるか。私真宮エリカだよ。知り合いの可愛いJKを通報すんの?」
「エリカさん!?」
「うん。寝る前にちょっとダイブしたんだ。誰かさんの使用キャラクターのアチーブメント見てみたらさー、クエストとか全然進んでないし、主要な街にも到達してなかったから、ちょっと様子見にね」
「よくオレのキャラ名がわかったな」
「兄のアカウントに紐づいてるプレイヤーキャラクターを確認したからね。それよりも、ウエスタンハットがどうかした?」
「あ、うん」
ここでエリカさんに会うなんて予想もしてなかったし、連日の長時間プレイで頭が上手く働かない。
それでも、彼女はオレのアチーブメントを見て、まともにゲームをやっていなさそうだと考えてるみたいだし、誤解を解いておく必要がある。
少し面倒だが、オレはこれまでの活動やら、獲得したスキルなどについて彼女に話しておくことにした。
「ウェスタンハットが必要な理由は、バグの確認っていうのかな。ユニークスキルってのを獲得したからアレコレ試してみてて––––」
俺はギョッとする。
エリカさんが感心した様子でオレの頭に手を伸ばしたからだ。
「げげっ!」
VR技術ってやっぱり凄い。他プレイヤーの手の感触が頭にちゃんと伝わってくる。
撫でられている感触がリアルすぎて、喜ぶどころかアホ面になってしまうが。
「な、な、何で撫でるんだよ???」
「えー、だって偉いからさ。こんなに早くユニークスキルをゲットするだなんて期待もしてなかったんだ。流石だね、佐藤さん」
「あれ? ユニークスキルって、バグじゃないのか?」
頭を撫で続けられるので落ち着かないけれど、今の自分も女見たいな姿なのだと言い聞かせ、何とか平静をよそおう。
「バグじゃないっぽいよ。他のプレイヤーに聞く限りでは、このゲームの仕様の一つらしいねー。確か1プレイヤーがゲームを開始してからの時間と行動回数の割合? で付与されてそうって結論が出始めてるんだってさ」
「へー、言われてみれば、オレってずっと武器ばっか作ってた」
「
「は!?」
エリカさんって結構人を振り回すのが好きなタイプなんだろうか?
下手すると勘違いした反応を返してしまいそうになる。
「兄の件でちょっと頼みたいことある」
「……あ、そう。空いてるちゃ空いてるけど。マミヤの件って何? 事前に聞いときたい」
「雑談の配信的なのを、佐藤さんにやってもらいたいんだよー。兄もそれなりに人気なVだからさ、濃いめなリスナーさんがいるんだ。Twitterで安否の心配とか、サボり疑惑とかが出始めて、安心させてあげたほうがいいのかなって思ってる」
「はぁ? 絶対に嫌だ! ふざけんな!」
「ボイチェン使ったらバレないよ?」
「自分でやればいいだろ。マミヤの配信よく見てそうだったし、オレがやるよりもそれっぽくなるはずだろ!」
「無理無理無理。私人に媚びたりするの苦手だから。とにかく! 台本は用意するから、明日ウチに来て! ピザ頼んでおくからさ」
「オレだってよく分からん連中相手に媚びたくない!」
慌てるオレをよそに、エリカさんはさっさとログアウトしてしまった。
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