VRMMORPGとかいうジャンル

 真宮エリカからゲーム用機器を借りた後、諸々の設定をするだけで2日要し、それから更にVRMMORPG『アーティファクト・バトルドールズ』のβテストの基本操作に慣れるまで更に5日要した。


 5日かけて学んだ最も重要なことは、初心者はPvPエリアをなるべく歩かないってことだ。

 というのも、中間層のプレイヤーにとっては初心者狩りが最も効率の良いファーム方法だからだ……。



 ––––––––巨石の方から無数に飛んでくるのは銃弾。

 オレはそれらをキャラクター操作キャラコンのみで避けきり、初期武器の石つぶてを寸分違わずに木の上のスナイパーの頭にヒットさせる。

 すると奴はズザザ……と音を立てて落ちてきた。こいつはゲーム序盤の街周辺に張り込み、初心者を狩り続ける害悪プレイヤーである。

 彼、または彼女の近くに撒き散らされた所持品を拾い集めていると、近くに居た傍観者が「すっげ。あいつのキャラコン、神かよ! てか、装備がゴミすぎるな。あれで勝てるのか!」などと喋るのが聞こえた。

 

 けど、正直言って褒められてもあんまり嬉しくない。

 あれだけ適当に撃たれるのだったら、誰だって避けられるんじゃないか?


 呆れながら足ばやにPvPエリアを立ち去る。


(多少慣れてはきたけど、やっぱ今のオレはVRMMORPGでやっていけるほどの強さではないんだよな。街道に出ると更に厄介なプレイヤーがひしめいてるみたいだし)


 ゲームに慣れるためにもたもたしている間に、メインでやっているゲームの新シーズンが始まってしまった。全シーズンの上位ランカーから遅れを取ってしまうことが気になって仕方がないけれど、βテストには金が絡んでいるから、こちらを優先している。


 それに、このゲームは知りたい情報を探しづらくてだいぶ困っている……。


 βテスト中だから情報公開範囲が制限されているんだろう。

 google、twitter、各種掲示板、まとめサイトなどで調べてみても、知りたい情報が殆んど載ってなかった。


 だから、テスト開始以降は毎日睡眠時間を1時間程度まで削り、思いつくことがあれば実践を繰り返してデータを取っている。

 おかげでオレはゲーム最序盤の街と、そこに隣接している射撃場の2ヶ所だけを往復する毎日。しかもFPS全般に役立てるために、エイム(≒照準)を鍛える必要があり、毎日エイム訓練用の動く点を追いかけ続けるゲームをやっている。

 つまらないを通り越し、ノイローゼ寸前だ。


「––––っていうか、エリカさんも一緒にゲームをしてくれるんじゃなかったのか?」


 話を聞く限りでは、彼女はこのゲームをそれなりにやりこんでいそうだったので、色々と教えてもらうつもりだった。

 しかし忙しいやら何やらで全くログインしていないようだし、当然ながらゲーム内のフレンド欄にも彼女の名前はない。

 普通オンラインゲームは他のプレイヤーとの交流を楽しむものなのに、現在のオレはただのボッチだ。更に自虐するなら、金を貰ってゲームをしているからRMTリアルマネートレーディング業者連中とあまり変わらない気もしている。


「……他のプレイヤーキャラ(=PC)が輝いて見える。目立たないように日陰を歩いとこ……」


 うつうつとしながらもゲーム内の街中を歩く。

 ログイン早々にログアウトしたい気分になっているけど、仕事だから手を抜けない。


 気分を変えたくて、気晴らしに周囲の街並みを眺めてみる。

 まず視界に入るのは土壁で出来た家々。その辺を歩くロバや、牛。積まれたワラ、農機具などなど。

 初心者用の街だからなのか、かなり質素な感じがする。でもヨーロッパかどこかの街っぽくもあるから、見る人によっては綺麗な光景なのかもしれない。


「足元の凸凹感とかもちゃんと表現されてるし、技術としては凄いんだろうな。もっとプレイヤーが楽しめる部分に金かけてもいい気もするけど」


 義務でやっているゲームなので何でもいいかというとそんなこともない。

 実は一つだけ不満を持っていたりする。

 それは、キャラクリが出来なかった点だ。

 ゲームを開始した時に男女キャラのどっちかを選ばされただけで、それ以外何の選択肢も無かった。

 操作ミスかと思いきや、ゲームの仕様だったからだいぶ驚いた。


 前から走ってくるプレイヤーキャラクターも、今オレを追い越した奴も、井戸端会議中の連中も、全部が同じ見た目をしている。

 個性というものが無い。

 オレのキャラも例外ではなく、ゲーム内の鏡を見れば完全に量産タイプ––––こげ茶色のボブカットの髪にぼんやりとした虚無顔。ボディの方は胸も尻も真っ平ら。手足くらいはすらっとしてても良さそうなのに、半端な長さ––––だったりする。

 斬新なゲームシステムなのはいいが、この時点で産廃くささが漂ってる。


 ただし、この外見は変えようと思えば変えられる。

 アバターパーツというアイテムを利用し、自由自在に自分のキャラクターに変化をつけられるのだ(タイトルにある”ドールズ”は自由に見た目をカスタム出来る点に由来するらしい)。

 普通のプレイヤーはここに楽しみを見出すんだろう。

 

「でも、アバターパーツはレアアイテムだから、メチャクチャ高額なんだよなぁ……」


 ゲームを開始したばかりのプレイヤーは当然金欠状態なので、ゲーム序盤のこの街ではオレみたいな量産型のプレイヤーキャラクターが溢れかえっっているわけなのだ。

 というか、オレの場合は特に金欠がひどい。


 なぜかというか、βテストを開始してから、キャラクターコントロールの練習と射撃の練習の他には武器製作をやり続けているからだ。


 ゲーム内では様々な行動––––モンスターを倒したり、ダンジョンに潜ったりすることにより、多種多様なウェポンパーツを手に入れることが可能だ。

 それらを組み合わせたら武器を作れるわけだけど、適当に組み合わせるのでは店売り(ゲームシステムが一定の価格で売っている)の武器よりも性能が悪いため、だいたいのプレイヤーはウェポンパーツをゲットしたとしてもオークションに格安で投げ売りしている。


 オレはそれに目をつけ、安い物からどんどん買い込み、アレコレと試してみている。


 本日もログインした後、真っ直ぐにオークションボード(オークション機能が使えるオブジェクト)へと向かい、どんな物が売り出されているかチェックする。


 しばらくアイテム名を眺めると、初めて目にする名称のパーツを発見出来た。

 パーツ名はアクションスライドBG-AB-6。

 

 タイプ・ヌルアブルという名前のプレイヤーが出品していて、たった10ゴールドで直ぐに落札可能になっている。


「タイプ・ヌルアブルって人から良く買ってる気がする。そろそろ向こうもオレの名前を覚えそうだな」


 覚えられたところでどうということも無いだろうが、陰キャの習性で、今度からは別の出品者から購入したくなる。





 

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