βテスト参戦決定
自分の部屋を出て、階段を勢いよく駆け降りる。
するとちょうど、1階奥からドアが開閉する音が聞こえてきた。
(父さんか? それとも母さん?)
トイレにでも起きたんだろうけど、今はどちらとも会いたくない気分だ。足早に玄関へと向かう。
しかし外に出るよりも前に、背後から声をかけられた。
「今から出かけるのか?」
振り返るとパジャマ姿の父が立っていて、いつも通りの虫けらを見るような眼差しで俺を見ていた。
さっきまでの浮ついた気分は一気に下降し、口から出る声は自然と低くなる。
「そうだけど」
「またこの時間までゲームをしていたのか。最近は学校に行っている様子もないし、資格一つとる様子もない。今就職がどれだけ厳しいと思ってる。お前、ニートにでもなるつもりなのか?」
「どうでもいい」
父の声を聞いているうちに、だんだん気分が悪くなってきた。
正直コンビニに行く気力が無くなったが、早くこの場所から逃げたい一心で、玄関のドアに手をかける。
「呆れた奴だ」
心底ウンザリしたような声を背後に受けつつも、何とか玄関からの逃亡に成功する。
早春の冷たい空気を肌に受け、ようやく肺から息を吐き出す。
「はーー……。うざい、うざすぎる」
さっき国内一位が確定した時に感じた高揚感は消えて無くなり、長時間ゲームをやったことによる疲労だけが残っている。
むなしさを振り払うために、俺は再び独り言を口にする。
「普通大学に入ったら一人暮らしさせるだろ。なんでいまだに実家通学なんだよ……」
バイトでもやればいいかもしれないけど、それをしたらランクを維持するのがきつくなる。上位ランカーでいることをそろそろ諦めべきだろうか。
小走りで敷地内に入るが、ポケットに入れたスマホが震え、足を止める。
取り出して確認してみると、Twitterにメッセージが届いていた。
「またランク1位のお祝いメッセージか?」
予感は半分当たり、半分外れていた。
「エリカさんからか……」
内容はFPSランクの国内1位を祝う文章と、先日の依頼の回答を早くくれというものだ。
先日の依頼の返事を先延ばしにしていたけれど、彼女の方もだらだらと俺の回答を待っていられない状態なのかもしれない。
「1,000万円くれるって言ってたな。やっぱでかいよなー。それだけあれば、一人暮らし出来るし」
思い出すのはさっきの父の失望しきった目。
引きこもってゲームばかりをやり続ける息子が恥なんだろう。
だけど俺もあいつが嫌いだ。高校在学時にプロゲーマーチームにスカウトされたのに、父に反対され、勝手に断られてしまったからだ。
中学の頃からの夢だったのに、実の親に握りつぶされた。
悔しい気持ちが蘇ってきて、俺はため息をついてからコンビニの中に入る。
そして無心でカップヌードル、コーラ、新発売の焼き菓子を手に取り、レジに向かう。
エリカさんからのメッセージを考えないようにしているのは、今の精神状態で決断したらろくなことにならないからだ。
安易に判断していいほど、軽い依頼なんかじゃない。
しかし、彼女の方も俺の揺らぎを見抜いているのか、二度目のメッセージを送ってきた。
仕方が無くコンビニを出てから、再びTwitterを開く。
「……次はなんだよ?」
”何度もごめん。実は前から君のことを知ってる。兄と一緒にゲームやってるの見て、ゲームがうまい人だなって……。一緒に遊べたら、きっと楽しいし頼りになりそうだなって思ってる。それでもやっぱり駄目?”
「エリカさんも一緒にゲームしてくれるってことか?」
ただの身勝手な願望なのに、何故か胸にストンと入ってきた。
ゲーム漬けの生活を送ってきたから、残念ながら俺の人生にはリアル世界の異性と関わるなんてことがとても少ない。
特に、顔面強者の女子高生となんかすれ違うことすら
エリカさんと付き合えるとは思わないけれど、一緒にゲームしたい気持ちは当然持っている。可愛い女子とゲームして大金を貰えるのだから、家を出ることを考えたら、これほど条件がいいことは無いんじゃないかとすら思える。
俺はコンビニと家の間にある公園のベンチに座り、酷くユックリと返信欄に文字を打ち込む。
”お受けします。よろしくお願いします”
充分に時間をかけて送信ボタンを押し、軽く唸る。
「うーん。承諾してしまった……。まぁ何とかなる、よな? マミヤが倒れてから結構な時間が経ってるし、問題のスキルについての情報もどっかに転がってそうだ」
とりあえず家に戻ったら、
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