日本一になったものの……
初対面のJKに奇妙な頼み事をされてから、すでに4日経っている。
あれから何度も1,000万円と、欠陥ゲームのテスターをやるリスクを比べてみているが、いまだに結論が出ていない。
エリカさんからは回答を催促するようなメッセージが二回届いている。
それらを適当にはぐらかしているから、そのうち俺のことは諦め、別のゲーマーに頼むかもしれない。
それならそれでいい――――とはわり切れず、1,000万円を得る機会を逃すかもしれないと、ひたすら焦っていたりする。
(うあぁぁ。決められない。どうしたもんか……)
雑念だらけの俺の思考は、数発の銃声で現実に戻される。いや、現実というのはおかしい。意識がゲームの中に戻っただけだ。
ヘッドホンから、友人の悲鳴にも似た声が聞こえてくる。
『何やってんだよ、司! 集中してくれよ!』
「悪い。長時間やりすぎて、一瞬頭がおかしくなってた」
『正気に戻れ! オマエがまともなら、勝てるんだ!』
「ていうか……。お前がダウンしなかったら、俺がこんなにプレッシャー感じなくてもすんだんだけどなー」
『済んだ事をグチグチ言うなよなー!』
「はぁ……」
友人の開き直りには呆れるが、確かに今は集中すべきだ。
本日2時にシーズンが終了するため、このマッチは最終的な順位を決めるためには非常に重要。絶対に落とすわけにはいかない。
”残り3名――”
ゲーム内に音声アナウンスが流れ、マウスを握る俺の手はジットリと汗ばむ。
画面下部に一瞬だけ視線を向けると、”オペレーター探知機”はすでに使用可能な状態になっていた。俺はキーボードを叩き、迷わずそれを使用する。
探知した方向は正解だった。紫色の人型の影が2体表示される。
1人は2階。そしてもう一人は俺が今居る1階――影のサイズ的に10mも離れていない。
「そこか……」
俺は自キャラを身体の部位が見えない位置まで移動させ、直角に曲がった壁から、照準を少しだけ離す。敵オペレーターが現れたなら、おそらくここが、頭部になるはずだ。
大ダメージを出して、一発のみで仕留めたい。
ザリ……ザリ……。
ヘッドホンに、敵の足音を示す微かな音が入る。
向こうも俺のオペレーターの存在に気がつき、殺しに来たようだ。
瞬きもせずに、画面を見つめる。奴は絶対に、この位置から出てくる。そこからは反射神経勝負になるだろう。
俺の読みは少し外れた。
様子をうかがうためなのか、意表をつくためなのか、向こうはジャンプしながら壁際から飛び出したのだ。しかし俺もこういった場面には慣れている。壁の向こうに引っ込む前に、照準を僅かにずらして、敵オペレーターの頭を撃ち抜く。
『司、ナイス! もう一人殺ったら、勝者は俺たちだ!』
『ちょっと静かにしてくれ』
『悪いな!』
VCに返事をしつつ、自分が操作するオペレーターを柱の陰に潜ませる。
微かな足音が聞こえた気がした。
二階に居た奴が降りて来ているかもしれず、ショットガンをリロードしておく。
もう一度”探知機”を使用してみると――やはり二階から降りて来ていて、俺が居る部屋の窓のすぐ外に張り付いているようだ。
俺は所持品からグレネードを取り出し、割れた窓に投げつける。
奴の足元に落ちさえすれば、必ずダメージをくらうはず。
グレネードが落下したであろうタイミングで、奴は室内に飛び込み、ウルトで一気に距離を詰めてきた。
「そうくるか!」
不意打ちで腰にくらった銃弾により、俺のオペレーターのシールドは剥がれている。
だけどまだ終わったわけじゃない。
柱を挟んでの撃ち合いに、俺は全神経を集中させる。
肩、胴……と、はみ出した部位を撃っていき、そして奴の動きの裏をかき、その頭にトドメを刺す。
画面に表示された”Winner”の文字を見て、俺はようやくつめていた息を吐き出す。
『ナイス、司! オマエと今シーズン最後にデュオ出来て良かった!』
「こちらこそ、ありがとな」
次のシーズンは1週間のインターバルを挟むため、暫くはノンビリと過ごせる。
とは言っても、ランクを回すのは俺の楽しみでもあるから、この期間が若干つまらなくはあるのだが……、選んだゲームの方針がこうなのだから、仕方がない。
『っていうか、オマエさ、今シーズン国内ランク1位じゃないか?』
「そうであってほしい! ちょっとランキングサイトを確認しよう」
『俺も自分の順位気になるな。今のポイントで多少上がってたらいいけど』
スマホでゲームのランキングサイトを開き、国内ランキングのページに移動する。
そのランク1位の箇所に、自分のプレイヤーネームを発見し、つい夜中だということも忘れて叫び声を上げる。
「やった!! ついに国内1位でシーズン終えれた!!」
『おめでと! オマエならやれると思ってた。俺も27位だったわ』
「27位も良い感じだな。また声かける!」
『よろしく、じゃ、寝るー』
「またな」
通話を切ってから、discardのウィンドウを閉じようとしたが、どんどんとランク1位を祝うメッセージが入ってきて、返信に追われる。
「うっわ、多すぎて返事しきれない。ちょっとコンビニ行って、食い物買ってきてから続きを返すかー」
財布をポケットに入れ、ゲーミングチェアから立ち上がる。
オンラインゲーム繋がりの人間関係はなるべく大事にしたいけれど、空腹には勝てない。
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