8月20日(月)
「いやいや、昨日はどうも。
なあに、こっちだって悪意があったわけじゃありません。何せ暇なものでね……ちょっとからかってみたくなっただけなんですよ。
そんなに怖い顔しないでくださいな。
僕の頭がおかしくなったら、それこそ貴方達だって困るでしょ?
病院にそういう診断を下させたくないんだったら、少しぐらい僕の御遊びに付き合ってくれても良いじゃあないですか。
ね。
えーっと、何から話せば良いのかな。
あー、最初から?
最初って言われてもなぁ、事の発端がだいぶ遡らないと辿り着けないからなぁ。
えー?あ、はい、じゃあ全部話しますね。
事の経緯から何から全部、今に至るまで。
無駄口とか、僕の価値観だとか人生観だとかについてのぐだぐだしたおしゃべりとか、色々と要らない話が多いと思いますけど。
まあ、全部聞いてください。
なにしろ、そういうのを挟まないと喋れない性なんでね。
はい、じゃあまず、事の発端は僕が中学2年の頃まで遡ります。
……最初から話せって言ったのはそっちじゃないですか。じゃあ話しませんけど。
話の腰を折るような発言は控えてください。
当時、僕は、はっきり言ってしまえば、変な子でした。
そのままの意味です。
妙にませていて、ミステリが好きで、毎日空想、幻想、妄想に明け暮れている、とにかく変な奴でした。
そのくせやけに自己陶酔気味で、自分で気持ち悪いとは自覚していながらも、自他共に認める、言ってしまえば〈ナルシスト〉だったわけです。
正直自己陶酔だとか、自愛に関しては、今でも悪い事、恥ずかしい事だとかは思ってません。
まあ、キモいなとは思いますけどね。
何でって、そりゃあ、何も悪いことはしてないわけじゃないですか。
他の奴等みたいに、休み時間に低俗な下ネタのキャッチボールをするでもなし。
気色悪いカースト制度にのしあがって行こうとするでもなし。
誰かを踏み台にして上に上がろうとする屑の真似をするわけでもない。
何にも悪いことなんかしちゃあいない。
そんな奴等より、僕の方がよっぽど偉いでしょ?
【言葉】という何より簡単な暴力を振るわれたって、何一つ言わずにいつもにっこり笑顔で黙り腐って、みんなの機嫌取り繕って、自分がヒールになるように状況を仕向けて。
それの何が悪いって言うんですか?
虐められてる僕可哀想。
殴られてる僕可哀想。
いじめられてる子を庇って代わりに嫌がらせされてる僕可哀想。可哀想な子を守ってあげてる僕格好良い。
素敵。
美しい。
可愛い。
優しい。
そう思う事の何がいけないって言うんですか。
周りのクソみたいな連中よりよっぽど僕の方が偉いじゃないですか。
そうでも思わないとこの世の中やっていけないじゃないですか。そう思うことをやめさせたいのであれば世界をもっと良くしてから言って欲しいですね、ええ。
まあいいや、本筋に戻ります。
それでまあ、僕は持ちつ持たれつ、そこそこ平和な暮らしを送ってたわけです。
まあその時は、変な奴とは距離を置くようにしてましたから、それもあるとは思いますが。
とどのつまり、僕の実力ではないってことです。
そこで事件は起きました。
事件とは言っても、人が殺されたとか、暴力沙汰になったとか、そんな大したものじゃありません。
僕の昔から、言っても5、6年程度ですけど、の友人に、あ、女性ですよ、下校の時に真剣な相談をされたんですよ。
その子はね、普段から小学生レベルの下ネタを男子と一緒になって叫んでるような子でね。
一見すると、悩みなんか、人に相談しないといけないことなんかひとつも無さそうに見えてしまうわけなんです。
ところがどっこい、蓋を開けてみればとんでもなくドロドロしたものが出てきたんですが。
ざっくりまとめると、一歳上の先輩と付き合って行く上での相談でした。
……だからそんな顔しないでくださいって。ここまではよくありそうな話です、そうです、よくあるんですこういうこと。
こう言う世の中だからね、あるんです。
本来はこんなこと、あっちゃあいけないはずなのに、たかだか中学生が恋愛に悩むなんてことあっちゃあいけないはずなのに。
それでもね、ここで終わりじゃないんですよ。
だからまだ聞いておいてください。
まあ彼女曰く、何とも酷い対応をされているとのことでした。
俗に言う[モラハラ][DV][浮気症]の豪華三種盛りですね。
ああ、DVに関しては言葉の方です。
流石に暴力の方だったら、とっくにその時通報してますよ。
ミステリはよく読んでいましたし、刑事ドラマも好きでしたから、匿名通報ダイヤルっていうものがあるってことぐらいは知ってます。
マニアの中では常識ですから、ええ。
付き合ったきっかけもほぼ悪ノリみたいな話で。
彼女はいたって真剣だったわけです。
初めて異性と御付き合いするわけで、今後どうしていくか、どうしたいか、どう歩んでいくか、そんなライフプランもしっかり考えようとか思ってたわけです。
西、いや、名前も呼びたくないな、どうしようかな。
仮にAとしましょう。「仮に」なんてないですけど、まあ許してくださいよ。
Aは彼女で、えーっと、ほら、うーん、なんて言えば良いかな。
つまり、「やった」わけです。
察してくださいよ。社会で生きてれば分かるでしょ。
端的にいうと、性的なことも彼女としたわけです。
ああもう、うざったいな。セックスです、セックス。
彼女で卒業したんですよ。
そんな華々しいものなのかなって思いますけどね。
お互いに初めてでしたから、その時は真剣だったんでしょうね。「その時」は。
私はSNSのダイレクトメッセージでしかAとやり取りしていなかったんですが、その際も『可愛い子が居たら教えて』だの、『妹系の子が食いたい』だの、とにかく酷い奴だったんですよね。
普通ありえないでしょ?
彼女がいるのに別の女を探していることを仄めかすような表現。会話。メッセージ。
こういうのを人間失格って言うんじゃないですか。
まあ8ヶ月もすればガタが来るわけですよ。
その頃です、僕が彼女から相談を受けたのは。
連絡……?最近取ってるかと?ええ、まあ。取ってますけど、それが何か。
は?
……僕はね、そういうところが嫌なんですよ。
だから答えたくなくなるんですよ。
「男と女が居ればそこには必ず酒とセックスがあるはずだ」なんて、考えが幼稚すぎるでしょ。中学生でももう少し論理的な説明ができますよ。
結局、それに従う人間って本能に負けてるって事じゃないですか。
せっかく料理ができるのに、毎日カップラーメンとインスタント食品で片付ける。
せっかく創作意欲というものがあるのに、スマホとインターネットに身をやつし、現実のアートには見向きもしない。
せっかく筋肉と体力を与えられているのに、外にも出ずネットサーフィンと動画サイトを漁るばかり。
せっかく理性と知性があるというのに、肉欲と支配欲にかまけた、強姦なんていう幼稚でおつむの弱いお遊戯をする。
神から体と能力を与えられたのなら、それを存分に生かしてこそ人間じゃないんですか?
敷かれたレールのままに彷徨って、適当に曲がって、適当にスピード上げて、適当に事故起こして、適当に謝罪して、それだけが人生なんですか?
それだけ?本当にそれだけ?
だとしたら、なんてつまらない人生なんでしょう。
生きる意味を見出せない人が現れるのも当然ですよね。
それで言えば僕は……
え、もう終わり?20分しかないんですか?
短いんですね。
今日はどこまで話しましたっけ、覚えておかないとね。次の時に何から話せば良いのか分からなくなりますから。
ええ、じゃあ、今日のところはさようなら。
また明日……あるいは明後日、明明後日に。
人間の屑が半生を談る 須吼 @ShouldScream-0000
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