03.半魔と皇女

 軽いハプニングのあと、服を乾かしてから図書棟に向かった。


 棟の中は広大で貴金属が惜しまなく使われている。無駄に金が使われている。

 趣味が悪い… これで落ち着いて本を読めるのか?

 貴族達は金がかかる=良い事と思っていると思っているのだろうか…


 中を一通り見回ったが、事務員も含めて誰もいない。

 それもそうだろう、学園にはある風潮が広がっていた。

 「図書棟など貧乏貴族の使う場所だ」

 無料で本を借りられるというのが風潮の起因だ。

「本を買う金もない」と思われるかもしれない。

 そんな噂を立てられるのが貴族にとっては屈辱らしい。

 利用者がいないのだから、事務員も必要ない、と少し前に撤収させたらしい。

 風魔術を掛け、掃除を自動で行っているので清掃員も必要ない。

 伝統ある施設だから大切にされているが誰もいないという少し寂しい施設だ。


 ここに来た目的は、外では調べきれなかった人と魔族の子供、についてより詳細に知るためだ。

 魔族と中が悪いからと言うだけで、忌み嫌われるだけならまだしも禁忌とされるのは疎まれすぎている。


 まだ何か他にも理由があると考え、歴史を調べられるであろうここに目星をつけた。


 史書を片っ端からを読み漁っていくと、それらしいのが見つかった。


 ~500年前に人間を滅ぼそうとした魔王がいた


 魔王は人間と魔族の子供だった


 魔王は歴代のどの魔王よりも強かった


 誰もが諦めたその時、男が現れた


 男は仲間を引き連れ、魔王に挑んだ


 男は魔王を倒し世界を救った


 世界は男を勇者と呼んだ


 平和になった世界で、男は天命を全うした


 男は最後にこう言い放った


 もし世界がまた危機に陥った時、私は必ず戻ってくる、と~



 なるほど、半魔が禁忌とされているのはここから来ているのか


 


「世界が危機に瀕した時、勇者は現れる…か」


 隣国の勇者と呼ばれていた少年を思い出して、しばらく考えに浸っていた。


 すると突然、背後から声がかけられた。


「なによ、珍しく人がいるじゃない」


 振り返るとそこには少女が立っていた。


 身長は俺より少し下、透き通った金色の長く美しい髪をたなびかせている。きめ細やかな白い肌、制服に包まれた華奢な身体、理知的な翡翠の瞳がこちらを見据える。端正な顔立ちに幼さがほんの少し混じっている見目麗しい少女だ。


 その少女をこの学園で知らぬものなどいないだろう。


 美貌、知能、才能、全てが最上で全ての貴族が跪く気高き血筋を持つ少女。


 少女の名はアイシャ・アレイス・ルーアドラ


 この国、ルーアドランティス帝国の第三皇女だ。

 

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