5.約束

 由紀の顔が輝いた。由紀の眼から涙があふれてきた。由紀は私の胸に顔を埋めた。


 「うれしい。先生。うれしいわ。私が結城先生の奥さんになれるなんて・・まるで、夢のよう・・」


 私は由紀の髪を撫でながら甘い声を出した。


 「僕もうれしいよ。由紀のような素晴らしい女性と一緒になれるなんて・・僕の方こそ夢を見ているようだ」


 「ねえ、これは夢じゃないと私に思い知らせて・・」


 「どうやって?」


 「もう一度、抱いて・・」


 私はもう一度由紀を抱いた。抱かれながら由紀は泣いていた。その後で、私は由紀に言った。


 「由紀。もう二人は夫婦だということでね・・相談があるんだ」


 『夫婦』という言葉に由紀の肩がぴくりと震えた。


 「えっ、なあに?」


 「僕たちが夫婦になる記念にさあ・・僕たちが出会うきっかけになった、由紀のあの論文・・『S大学東側丘陵について(観音山の古墳形状の考察)』を学会に発表したいんだよ」


 「えっ」


 由紀が私の身体の上に半身を起こした。二人とも全裸だ。由紀の乳房の先が私の胸をこすった。由紀が私を上から見た。


 「うれしい。直人はちゃんとあの論文のことを気にかけてくれてたんだね」


 由紀が初めて私を下の名前で呼んだ。


 「もちろんだよ。僕が由紀の論文を忘れるはずがないじゃないか。それでね、学会に発表するに際しては、論文を埋もれさせたくないんだよ。何と言っても僕たちの記念の論文だからね」


 「・・・」


 「だからね。論文を由紀の名前じゃなくて・・僕の名前で出したいんだ。こういっては何だが・・僕はS大の教授だし・・テレビにもよく出ているし・・だから、由紀の名前で出すよりも・・その・・」


 由紀が私の口を手でふさいだ。私の耳に口をつけて言った。


 「直人。最後まで言わなくていいよ。私はもう直人のもの。私の全ては直人のものだよ。だから、あの論文も直人のものだよ。だからね、直人が好きにしていいんだよ」







 

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