3.計画
しかし、論文を読み進めると、私の手が細かく震えてくるのが自分でも分かった。見事な考察だった。全く新しい切り口だった。しかも奇をてらった論説ではない。正々堂々と論陣を張った内容だった。最後まで読まないうちに、私は観音山が古墳だと確信していた。
私は感嘆した。そして同時に恐怖した。こんな論文が世に出たら・・さっき思ったように、今まで築いてきた私の立場は一気に崩れてしまう。
私は眼の前の由紀に眼をやった。由紀は椅子に座って下を向いていた。緊張しているのだろう。身体をかちかちに
私は由紀を観察した。お世辞にも美人とは言えない。垢抜けのしない顔だ。黒縁のメガネを掛けて、今どき珍しく髪を三つ編みにしている。小柄で高校生か中学生と言っても通用しそうだった。服装も地味で、とても若い娘の着る服とは思えなかった。
とにかく、この場を切り抜けないといけない・・私は優しい声を出した。
「なかなかいいね」
由紀がはっと顔を上げた。顔に歓喜の表情があった。
「確か鏑城由紀君でしたね。なかなかいい着眼をしている。それでね、僕は君のようにやってきてくれた人に、その場で思い付きの感想を述べるような失礼はしないようにしているんだ。どの人の論文も尊重しているから、じっくり考えて感想を述べるようにしているんだよ。だから、君の論文もゆっくり読んでコメントさせてもらいたいんだ。一週間後にもう一度教授室に来てくれないか」
由紀の顔に笑顔が広がった。
「結城先生。どうか、よろしくお願いします」
由紀はそう言って頭を下げて帰っていった。その一週間の間、私は計画を練った。
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