第2話
***
立ち上る黒煙が割れた窓から流れこんで来る。
異常事態を告げる警告灯はしばらく前から点滅を繰り返し、耳障りな警報音もずっと鳴り続けている。
被害は甚大だ。
爆発による突き上げるような衝撃こそいくぶん収まってきたが、艦橋右舷にくらった直撃弾はすでに満身創痍だったこの艦の機能を止めるには充分すぎるものだった。
損傷を受けたこの艦橋で動ける者はもはや安藤と高柳艦長の二人を残すばかりである。
「艦長! 副砲大破! 第ニ艦橋からの応答も途絶えました!」
自身も額から血を流した安藤が報告を上げる。
艦を預かる高柳は下士官を見据えて言った。
「安藤、全艦に退艦命令」
「艦長……本艦はまだ……」
戦う能力が残されていないのは明らかだった。悔しいが言葉の先が出てこない。安藤は唇を噛みしめる。
「急げ!」
高柳の声に突き動かされるように安藤は送話機を掴むとスイッチを入れた。
「総員に告ぐ! 現在本艦は敵艦との交戦により大破。甚大な損傷を被り、航行不能となっている。総員、直ちに退艦せよ! 繰り返す。総員、退艦せよ!」
あふれる涙をこらえ、送話機を置く。背後から高柳の声がする。
「安藤、お前もだ」
「艦長はどうするおつもりですか」
「私は残る」
安藤は胸を張り、毅然とした態度で言い放った。
「それではわたしも残ります」
高柳は若い下士官の返答を予想していたのだろう。
「お前も残ってどうする」
「自分もこの艦と共に――」
「安藤、お前はまだ若い。この戦争は負ける。だが国は残る。残された国を支えていくのはお前たちのような若者たちだ。お前が死ぬのはまだ早い」
「しかし――」
「なあ、安藤」
なおも食い下がる安藤を見て高柳は少し困ったような表情で笑った。
「最期ぐらい俺に華を持たせちゃあくれないか」
「艦長……」
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